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本編

真相

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美紅には解っていた。
リッチは倒せない事を。
正確に言えば、『あれでは倒せない』だ。

倒し方は存在する。
それは多分こうするのだ。

美紅の前腕に巻き付いていた蛇の装飾が伸びる。
スネークビュート。
金属製の蛇だ。
生きているかの如く自由に動く。

「ハッ!」

美紅は気合いと共に蛇を振るった。
鞭の様にしなりながらも空気を裂いて、ガッチェ像と石碑の両方を打ち砕いた。
特殊な合金製のスネークビュートは、硬く、強靭で、非常に軽い。
しかし特殊な加工技術により、表面の鱗を模した蛇腹部分は高速で引くと、鉄をも削った。

瞬く間にガッチェ像は削り取られていく。
そして中から金属の支柱が現れた。
石碑も根本を削り取られて倒壊した。

ザアアアーザ、ザザザー……。
美紅の頭の中のノイズが薄れていく。

「はあッ!」

ガゴオオオッ!
気合いと共に奮ったスネークビュートが、完全に石碑と像を破壊した。
同時に美紅の電子回路は復旧した。
センサー類が再起動する。
美紅の知覚できる世界が一気に拡がっていく。
世界が明るくなった。

「戻った!」

美紅が思わず声を上げた。
石碑の地下に電気反応を見付けた。
結構な深度だが掘れるだろうか。

やるしかない。
美紅は迷う時間さえ惜しかった。

像のあった場所に近付くと自らの体をドリルの様に回転させて、ゆっくりと地中へと沈んでいく。
スネークビュートを螺旋状に体に巻き付けていた。
高速で回転しながら美紅は土中を掘り進んだ。
二十メートル近く沈降した辺りで、美紅は不意に広い空間へと降り立った。
立ち上がり、辺りを見回す。

「見つけたわ……」

そこは暗闇の中で静かに機械音が鳴っていた。
美紅の目には暗闇でも見える、超々高感度赤外線センサーが内蔵されている。
地上からわずかに降り注ぐ明かりでも、はっきりと見えていた。

「スーパーコンピューター『インフィニティ』……」

そこにはかつて日本が誇ったスーパーコンピューター『インフィニティ』があった。
政府と大手の半導体メーカーが共同出資した、当時世界一のスーパーコンピューター。
まだ稼働している。
美紅は衛星から全てを俯瞰で見た。

「これは……」

この広場全体が巨大なパラボラアンテナの役割を果たすようになっている。
一体誰がこの様な設計にしたのか。
今となっては解らなかった。
そしてそれはこのスーパーコンピューターにも繋がっている。
像の中にあった金属製の支柱はアンテナだったのだ。

そして、他に生き残った他国の軍事衛星を自らの支配下に置いた。
ここからヤゴスの軍事衛星にもジャミングをかけていたのだ。
美紅はスーパーコンピューターに自らを接続し、侵入を試みた。

「……ノレ、オノレ。オマエタチサエアラワレナケレバ」

美紅は深く探っていく。
そして解った。

これは、リッチなのだ。

このスーパーコンピューター自体がリッチと化していた。
美紅は広い空間に所狭しと並べられたスーパーコンピューターの間を歩いた。
奥へ、更に奥へ。
そして、そこに何かを見付けた。

「あなたがリッチなのね……」

スーパーコンピューターが半壊した部分に、ここの職員だったのだろう男のミイラが、頭から突っ込んだまま死んでいた。
頭に金属製の部品が数多く突き刺さっていた。
地下施設故に全壊は免れたのだろう。
しかし一部崩落した部分がスーパーコンピューターを半壊させ、偶然職員が巻き込まれた。
そんな所だろうか。

それが何故リッチを産み出せる力を持ったのか。
それは美紅には解らなかった。
だが、このままにはしておけない。
それだけはハッキリしている。

「せっかく長い間生き延びたのに、ごめんなさいね」

美紅はそう言うと、スネークビュートでスーパーコンピューターを次々に破壊していった。

この中には今となっては貴重な、過去の世界のあらゆるデータが残っている筈だった。
しかし、どういう経路かは解らないが、自分達に対するデータもあるのだ。
残してはおけない。

美紅は感情を殺して、機械的にただただ破壊した。職員の死体も一緒に。
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