128 / 141
本編
毒を食らわば皿まで
しおりを挟む
「しっかりして。一体どうしたの」
美紅は少女を覗き込んだ。
少女は美紅を見ていない。
目は開いているが、明らかに今を見ていなかった。
恐らく何か記憶の中をさ迷っている。
美紅は少女の様子を見てそう思った。
どうする。
このまま続けても、状況は悪くなる一方かも知れない。
しかし放っておいても良いものか。
美紅は悩んだ。
唯桜は第二射に必要なエネルギーを何とか回復した。
量的にはギリギリの量だ。
「馬鹿なんでな。もう一度馬鹿の一つ覚え、やらせてもらうぜ」
唯桜はそう言うと再び構えた。
さっきと同じ様に全身から銃口が出現する。
リッチは何かを察して、今度は動きを見せた。
唯桜に好きにさせない構えだ。
杖を唯桜に向けて奮う。
光弾が杖から発せられた。
数発の光弾が唯桜へ向かう。
「ムンッ!」
ドカドカドカドカッ!
爆発音が鳴り響く。
唯桜の前に牛嶋が立ちはだかった。
「取り込み中だ。大人しくしてもらおう」
牛嶋が両腕を交差させた十字受けでリッチの光弾を受けた。
防御力では唯桜を遥かに凌ぐ牛嶋には、この程度では何のダメージにもならなかった。
しかしリッチも、そう言われて大人しくしている訳にもいかない。
続けざまに杖を奮う。
雷の予兆が見える。
リッチの周辺に帯電しているのが肉眼でも確認出来た。
黄色い稲妻がリッチの周辺に幾つも発生して、それが杖へと集められた。
牛嶋に動きは無い。
十字受けの姿勢のまま仁王立ちで待ち受ける。
牛嶋の内部ではダイナモが低速で回転し始めていた。
不意に。
リッチの杖から雷が放たれた。
落雷と同じ音が辺りに響く。
ドオオオオオオオオオオオオオンッ!
激しい雷鳴が鳴り止む。
牛嶋はリッチの雷撃を受け切った。
体内にある蓄電装置に全て収まっていた。
当然周りには一片の被害も無い。
自らを避雷針としたのだ。それも全て吸収する形で。
少女は牛嶋と唯桜が、共にリッチに立ち向かうのを見ていた。
と言うよりも、それ以外もう目に入らなくなっていた。
美紅は敢えて何も言わずに見守る事にした。
どっちも放っておいて良い筈の無い存在。
それは直感的にも、経験的にも解っている。
しかしリッチに関して言えば、確実に何とかしなくてはならない存在である。
人間とは相容れない負の存在だからだ。
リッチの存在は、居るだけで全ての生命体にとっての驚異である。
存在の為には生命から命を吸い続けなければならないからだ。
近くに居るだけでも、リッチが望まなくても、勝手に吸われてしまうのである。
恐ろしく高い知識と知能は、人間が策を労した所で全くの無意味だ。
強力な魔法は並ぶべき者が居らず、一切の物理攻撃は無効化される。
唯一ドラゴンと相対出来るとまで言われる存在。
それがリッチだった。
ここまで善戦出来ている事が奇跡に近い。
このチャンスを逃したら、倒せる機会などそうそう訪れない事くらい、少女にも解っていた。
しかし。
牛嶋五郎次。彼もまた危険だ。
現にリッチにここまで対抗している事がそれを物語っている。
唯桜と言う男も同類だ。
少女は決断できずに苦しんでいた。
しかし時間は無い。
両方を相手にする事は不可能である。
でも。
彼らは対話自体が不可能な存在とは思えない。
お姉様が一緒に居た事を考えても、絶対的な悪とは断じられなくなっていた。
個人では決断し難い事が、人生には稀にある。
怖がるな、決断する事が生きる事だ。
隊長が言っていた言葉を思い返していた。
少女は腹を括った。
「お姉様」
美紅は少女を見つめた。
「リッチは頻繁に、見えない何かを空へ放っています。そして降り注ぐ何かも受け取っている。上空を吹く風が教えてくれました」
美紅は、やはりと思った。
「他の場所からも同じ様な事は起きてないかしら」
少女は美紅の顔を見た。
もう後戻りは出来まい。毒を食らわば皿までだ。
「出ています。この広場のあの石碑。あそこです」
少女が指差した先には、この広場に建てられたガッチェ公の像と、その側に建てられた石碑であった。
美紅は少女を覗き込んだ。
少女は美紅を見ていない。
目は開いているが、明らかに今を見ていなかった。
恐らく何か記憶の中をさ迷っている。
美紅は少女の様子を見てそう思った。
どうする。
このまま続けても、状況は悪くなる一方かも知れない。
しかし放っておいても良いものか。
美紅は悩んだ。
唯桜は第二射に必要なエネルギーを何とか回復した。
量的にはギリギリの量だ。
「馬鹿なんでな。もう一度馬鹿の一つ覚え、やらせてもらうぜ」
唯桜はそう言うと再び構えた。
さっきと同じ様に全身から銃口が出現する。
リッチは何かを察して、今度は動きを見せた。
唯桜に好きにさせない構えだ。
杖を唯桜に向けて奮う。
光弾が杖から発せられた。
数発の光弾が唯桜へ向かう。
「ムンッ!」
ドカドカドカドカッ!
爆発音が鳴り響く。
唯桜の前に牛嶋が立ちはだかった。
「取り込み中だ。大人しくしてもらおう」
牛嶋が両腕を交差させた十字受けでリッチの光弾を受けた。
防御力では唯桜を遥かに凌ぐ牛嶋には、この程度では何のダメージにもならなかった。
しかしリッチも、そう言われて大人しくしている訳にもいかない。
続けざまに杖を奮う。
雷の予兆が見える。
リッチの周辺に帯電しているのが肉眼でも確認出来た。
黄色い稲妻がリッチの周辺に幾つも発生して、それが杖へと集められた。
牛嶋に動きは無い。
十字受けの姿勢のまま仁王立ちで待ち受ける。
牛嶋の内部ではダイナモが低速で回転し始めていた。
不意に。
リッチの杖から雷が放たれた。
落雷と同じ音が辺りに響く。
ドオオオオオオオオオオオオオンッ!
激しい雷鳴が鳴り止む。
牛嶋はリッチの雷撃を受け切った。
体内にある蓄電装置に全て収まっていた。
当然周りには一片の被害も無い。
自らを避雷針としたのだ。それも全て吸収する形で。
少女は牛嶋と唯桜が、共にリッチに立ち向かうのを見ていた。
と言うよりも、それ以外もう目に入らなくなっていた。
美紅は敢えて何も言わずに見守る事にした。
どっちも放っておいて良い筈の無い存在。
それは直感的にも、経験的にも解っている。
しかしリッチに関して言えば、確実に何とかしなくてはならない存在である。
人間とは相容れない負の存在だからだ。
リッチの存在は、居るだけで全ての生命体にとっての驚異である。
存在の為には生命から命を吸い続けなければならないからだ。
近くに居るだけでも、リッチが望まなくても、勝手に吸われてしまうのである。
恐ろしく高い知識と知能は、人間が策を労した所で全くの無意味だ。
強力な魔法は並ぶべき者が居らず、一切の物理攻撃は無効化される。
唯一ドラゴンと相対出来るとまで言われる存在。
それがリッチだった。
ここまで善戦出来ている事が奇跡に近い。
このチャンスを逃したら、倒せる機会などそうそう訪れない事くらい、少女にも解っていた。
しかし。
牛嶋五郎次。彼もまた危険だ。
現にリッチにここまで対抗している事がそれを物語っている。
唯桜と言う男も同類だ。
少女は決断できずに苦しんでいた。
しかし時間は無い。
両方を相手にする事は不可能である。
でも。
彼らは対話自体が不可能な存在とは思えない。
お姉様が一緒に居た事を考えても、絶対的な悪とは断じられなくなっていた。
個人では決断し難い事が、人生には稀にある。
怖がるな、決断する事が生きる事だ。
隊長が言っていた言葉を思い返していた。
少女は腹を括った。
「お姉様」
美紅は少女を見つめた。
「リッチは頻繁に、見えない何かを空へ放っています。そして降り注ぐ何かも受け取っている。上空を吹く風が教えてくれました」
美紅は、やはりと思った。
「他の場所からも同じ様な事は起きてないかしら」
少女は美紅の顔を見た。
もう後戻りは出来まい。毒を食らわば皿までだ。
「出ています。この広場のあの石碑。あそこです」
少女が指差した先には、この広場に建てられたガッチェ公の像と、その側に建てられた石碑であった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる