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唯桜は美紅を見ずに煙草を取り出すと、火を着けて一服した。
大きく吸い込み、紫煙を鼻から吐き出す。
いつもの光景だ。
「攻撃食らって苦し紛れに頭突きかましたらよ、……まあ、フラフラしちまって大して力が入らなかったんだが」
煙草をくわえて息を吸い込む。
先端の火種が明々と燃えた。
そしてまた紫煙を吐き出す。
そこで初めて美紅を見た。
「奴にもたれ掛かる様な格好になっちまった。そしたら柔らけえんだよ。例の見えねえ壁がよ」
美紅は、それだけの事で気付くものなのかと、不思議に思った。
「あんだけ殴ろうが蹴ろうがビクともしなかったのによ。旦那なんて本気で斬りに行ったのに弾き返されたんだぜ。それなのによ、沈み込むように柔らかかったんだよ」
唯桜は言葉を選ぶのに戸惑った。
もともと説明なんて苦手な男だ。
「だからよ、何て言うか……こう。速く行くとバイーンって感じなんだよ。速ければ速いほどそれ以上の力でバイーンだ」
少女は首をひねった。
バイーン? 何の事やら解らない。
だが美紅は唯桜の言わんとする所が見えてきた。
流石に長い付き合いなだけはある。
「それでよ、じゃあスピードを無しにして、プレス機で押し潰すみてえに馬鹿力でゆっくり押してみようと思った訳よ」
なるほど。少女にも解ってきた。
水面も早い速度でぶつかれば、鉄板の様に硬く感じると言うアレに似ている。
リッチに挑むほどの戦士ならば、その攻撃速度は常識の範疇には無い。
達人になればなるほど速い筈だ。
結果誰にも破れない。
魔法で生成したものを、魔法で除去するには術者を超える魔力の量が必要だ。
そうなれば、リッチに魔力で対抗できる者はおらず、優れた戦士ほど魔法障壁には歯が立たない。
とは言え、ゆっくり挑めば何とかなると言う様な簡単な話では無い。
ゆっくり力を加えても、リッチの魔法障壁が強力な事には変わりが無い。
ゆっくりでありつつも、万力の如き怪力が必要である。
そうで無ければあの魔法障壁は破れない。
当然リッチも動きが遅いとは言え、ゆっくり掴み掛かってくる相手を好きにはさせまい。
実際、唯桜は雷撃で執拗に攻撃されていた。
これに耐えるのも並大抵の事では無い。
そう考えると、彼で無ければ実行出来ない作戦だったと言える。
美紅は唯桜の戦いに関する執着心に、改めて驚異を感じた。
相手の弱点を嗅ぎ付ける獰猛な嗅覚は、正に狼のそれである。
「アンタのその弱点を見抜く観察眼には、恐れ入るわ」
美紅は皮肉無しで感心した。
「へへっ。相手の嫌がる事をとことんやる、ってな。……あ、いけね。旦那を探しに行かねえと」
急に思い出したかの様に唯桜が言った。
おめえら、ここで待ってろ。と言って唯桜が牛嶋を探しに行こうとする。
唯桜の視界に信じ難い光景が入った。
リッチの頭蓋が独りでに転がっていく。
そしてリッチの胴体まで転がっていき、遂には胴体までもが起き上がり始めた。
頭部はふわあっと浮き上がり、胴体の上に収まる。
リッチは両手で頭を捕まえると、くっ付ける様に首へと差し込んだ。
「マジかよ。気持ちわる……」
唯桜は呟いた。
火の着いた煙草が口から地面へと落ちた。
ヤーゴは驚きのあまり、口をパクパクと動かしている。
少女も戦慄した。
もう今日だけで、本当に何回驚けば良いのか。
恐らく常人の一生分は驚いた筈だ。
美紅は笑みを浮かべていたが、その頬には冷や汗が伝う。
ここからが本番とでも言うのか。
こりゃあ、右腕は今回も駄目だな。
唯桜は内心そう思った。
大きく吸い込み、紫煙を鼻から吐き出す。
いつもの光景だ。
「攻撃食らって苦し紛れに頭突きかましたらよ、……まあ、フラフラしちまって大して力が入らなかったんだが」
煙草をくわえて息を吸い込む。
先端の火種が明々と燃えた。
そしてまた紫煙を吐き出す。
そこで初めて美紅を見た。
「奴にもたれ掛かる様な格好になっちまった。そしたら柔らけえんだよ。例の見えねえ壁がよ」
美紅は、それだけの事で気付くものなのかと、不思議に思った。
「あんだけ殴ろうが蹴ろうがビクともしなかったのによ。旦那なんて本気で斬りに行ったのに弾き返されたんだぜ。それなのによ、沈み込むように柔らかかったんだよ」
唯桜は言葉を選ぶのに戸惑った。
もともと説明なんて苦手な男だ。
「だからよ、何て言うか……こう。速く行くとバイーンって感じなんだよ。速ければ速いほどそれ以上の力でバイーンだ」
少女は首をひねった。
バイーン? 何の事やら解らない。
だが美紅は唯桜の言わんとする所が見えてきた。
流石に長い付き合いなだけはある。
「それでよ、じゃあスピードを無しにして、プレス機で押し潰すみてえに馬鹿力でゆっくり押してみようと思った訳よ」
なるほど。少女にも解ってきた。
水面も早い速度でぶつかれば、鉄板の様に硬く感じると言うアレに似ている。
リッチに挑むほどの戦士ならば、その攻撃速度は常識の範疇には無い。
達人になればなるほど速い筈だ。
結果誰にも破れない。
魔法で生成したものを、魔法で除去するには術者を超える魔力の量が必要だ。
そうなれば、リッチに魔力で対抗できる者はおらず、優れた戦士ほど魔法障壁には歯が立たない。
とは言え、ゆっくり挑めば何とかなると言う様な簡単な話では無い。
ゆっくり力を加えても、リッチの魔法障壁が強力な事には変わりが無い。
ゆっくりでありつつも、万力の如き怪力が必要である。
そうで無ければあの魔法障壁は破れない。
当然リッチも動きが遅いとは言え、ゆっくり掴み掛かってくる相手を好きにはさせまい。
実際、唯桜は雷撃で執拗に攻撃されていた。
これに耐えるのも並大抵の事では無い。
そう考えると、彼で無ければ実行出来ない作戦だったと言える。
美紅は唯桜の戦いに関する執着心に、改めて驚異を感じた。
相手の弱点を嗅ぎ付ける獰猛な嗅覚は、正に狼のそれである。
「アンタのその弱点を見抜く観察眼には、恐れ入るわ」
美紅は皮肉無しで感心した。
「へへっ。相手の嫌がる事をとことんやる、ってな。……あ、いけね。旦那を探しに行かねえと」
急に思い出したかの様に唯桜が言った。
おめえら、ここで待ってろ。と言って唯桜が牛嶋を探しに行こうとする。
唯桜の視界に信じ難い光景が入った。
リッチの頭蓋が独りでに転がっていく。
そしてリッチの胴体まで転がっていき、遂には胴体までもが起き上がり始めた。
頭部はふわあっと浮き上がり、胴体の上に収まる。
リッチは両手で頭を捕まえると、くっ付ける様に首へと差し込んだ。
「マジかよ。気持ちわる……」
唯桜は呟いた。
火の着いた煙草が口から地面へと落ちた。
ヤーゴは驚きのあまり、口をパクパクと動かしている。
少女も戦慄した。
もう今日だけで、本当に何回驚けば良いのか。
恐らく常人の一生分は驚いた筈だ。
美紅は笑みを浮かべていたが、その頬には冷や汗が伝う。
ここからが本番とでも言うのか。
こりゃあ、右腕は今回も駄目だな。
唯桜は内心そう思った。
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