見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九五

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 どうする。
俺は考えた。
ケルピーがターンして戻って来る。
くそ、考える暇も無いのか。

 どごっ!

 ケルピーがすれ違い様に体当たりを食らわして来る。
ガードしているとは言え、そういつまでも耐えてはいられない。

「サフィリナックスブレード」

 俺はサフィリナックスブレードを起動した。

 じゅおおおおおおおおっ!
ボコボコボコボコボコボコ!

 サフィリナックスブレードが発動した瞬間、海水が瞬間的に沸騰する。
サフィリナックスブレードは超高温の光の刃だ。
温度が極限まで上がると、プラズマとか言う状態になるのだと言う。
それでどんな物も一瞬で断ち切る刃となる。

 ケルピーが三度戻って来た。
考えている暇は無い。
俺は構わず手刀をケルピーに見舞った。

 ガシッ!
 じゅおおおおおおおおっ!

「!?」

 ケルピーが慌てて離れていく。
サフィリナックスブレードに驚いたのか。
しかし、こっちもケルピーを切断出来ていない。
やはりブレードの温度が下がって、本来の威力を発揮できていないのか。 

 ケルピーはケルピーで熱さに驚いている。
水棲モンスターが水中で熱さを感じるなんて事はそう無い筈だ。
痛み分けと言う事なのか。
いや、依然として俺には決定打が無い。
早く何とかしないと。

 ケルピーが遠巻きに泳いで俺を警戒している。
今のうちに何か手は無いか。

 そうだ。

 俺は苦し紛れに思い付いた。
サフィリナは水中に住むひ弱なプランクトンだ。
そして、そのひ弱なプランクトンはどう身を守るか。

 俺はケルピーの見ている前で姿を消した。

 サフィリナの消える能力。
透明化。
その出来は陸上の比では無かった。
水中では本当に完全に消えた。
初めて地上よりも水中の方が『使える』能力だな。

 ケルピーはあからさまに困惑していた。
俺を見失って右往左往している。

 来い。
近付いて来い。
俺はケルピーを待ち構えた。
この状況こそが俺の能力向きのシチュエーションだ。

 ケルピーは俺の姿が見えなくなっても、迂闊には近付いて来ない。
相当に慎重だ。
最初も俺が攻撃範囲に入るまで、動かずに気配を消して待ち構えていた。
ケルピーは臆病なのかもしれない。

 水の外で人の声がした。
海の様子が変だ、なんだと騒いでいる。
水中で戦闘しているのを気付かれたか。
水面に気泡がたくさん上がったり、海面が大きく膨らんだりすれば、見張りが居ればそれはバレるだろうな。

 ケルピーは俺を探しながら少しずつ接近して来る。
くそっ、焦れったい。

 早く倒して船に上がらなければ、警戒されて船が出てしまうかもしれない。

 俺は辛抱強く、ジッと待った。

 ぼっ!
ぼっ!

 突如、船から銛が撃ち込まれた。
俺の目の前を、ロープ付きの銛がかすめて通り過ぎていった。

 手応えで何か探ろうとしている。
マズいぞ。
ケルピーも余計に警戒している。

 慌てず、音を発てず、水に圧を加えない。
魚なら、その水の動きで何かを察知する。
けっして動いては駄目だ。

 ぼっ!
ぼっ!

 銛が船から、二度三度と撃ち込まれる。
用心深い奴らだ。
早く諦めろ。

 くそ、もう少し。
もう少しケルピーがこちらに来れば。
ホンの数秒が、俺には何分にも感じられた。

 来た。
今だ!

 俺は手の届く範囲にケルピーが来たのを確認すると、ケルピーに装着されている馬具を掴まえた。

「!?」

 慌ててケルピーが反転する。
遅いぜ。
絶対に離さん。

 俺はしっかりと馬具を掴まえてケルピーに密着する。

「スクリューシェイブクロウ!」

 俺は指を立てると、高速回転する手首ごとケルピーの首へ腕を突き立てた。

 ギュルルルルルルルルルルル!
ドガガガガガガガガガ!

「!!」

ケルピーが叫ぶ。
しかし水中ではほとんど無音だ。
段々と血が水を赤く染めていく。
煙のように赤が広がり、煙幕のように辺りを包んだ。
それと同時に、船の上も慌ただしくなった。
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