789 / 826
七八八
しおりを挟む
「くっ……ぐぐぅ……!」
男が潰れた自分の膝を見詰める。
大の男が膝一つで情けない顔しやがって。
まだ十歳にも満たない子供を棍棒で殴り付けるような連中が、自分の膝は愛おしいってのか。
俺は余計に腹が立ってきた。
「おい。早く答えろ。お前の膝はもう一つ残っている事を忘れるなよ」
男が恐怖に満ちた顔で俺を見る。
そして、救いを求めるようにケンの顔と見比べた。
「レオ……」
「俺の決意表明はさっき言った通りだ。共感するかどうかはお前の勝手だが、邪魔をするならお前でも容赦はしない」
俺はピシャリとケンの言葉を遮った。
そうなのだ。
俺は秘密結社ネオジョルトの怪人、サフィリナックスだ。
相手が勇者であろうが聖女であろうが、邪魔をするなら容赦はしない。
正義の反対は悪では無い。
正義の反対は『また別の正義』なのだ。
俺はそれをネオジョルトから学んだ。
俺は俺の正義を遂行する。
例え俺の敵が正義の味方だろうと関係無いのだ。
俺には俺の正義がある。
じり
一歩、また一歩と威圧的ににじり寄る。
男は今にも泣き出しそうにケンの顔を見た。
「……ッ」
ケンは断腸の思いで男から顔を背けた。
「そんな……総隊長……!」
「諦めろ。自分の時だけ慈悲が与えられるとは思わん事だ」
俺は男の足下に立った。
「さあ、吐け。吐けば良し。吐かなければもう片方も潰れる事になる」
「わ……判ったああ!判ったから!勘弁して下さいぃ!」
男が鼻水を飛ばしながら泣き喚いた。
「子供たちはぁ……ヒック……労働力と商材に分けられて……ヒック……商材になった方は輸出されるぅ……ヒック……されますぅ」
泣いてんじゃねえよ。
泣きたいのは子供たちの方だ。
「上に居たのは労働力の方か。売られる子供たちはどこだ」
俺は更に問い詰める。
「この奥のぉ……地下水路から……ヒック……王城の……地下の……奴隷用居住地区……ヒック……からぁ……檻に詰めてえ……船で……ヒック……沖まで運んで……大型船に……載せ換える……載せ換えますぅ」
手が込んでるな。
やはり国が関わっていなければここまでは出来ない。
俺はそこまで聞くと、さっさとこの部屋を抜け出した。
「お、おい。待ってよ」
ケンが付いて来る。
「何の用だ」
「何の用って……」
ケンは後ろを振り返りつつ尚も付いて来る。
部下が気になるのか。
優しい男だ。
「別に付いて来なくて構わん。お前の目的は麻薬の密売だろ。こっから先に麻薬は無い」
「まだ何も言ってないだろ」
「じゃあ何故付いて来る。心配なら部下の側に居れば良い。お前がそうしても、俺は別に何とも思わん」
「そんな馬鹿な。放っておける訳ないだろ!」
俺は足を止めた。
「それは俺をか?それとも子供たちをか?」
ケンは一瞬だけ面食らった。
「馬鹿にするな!どっちもだ!」
俺はケンの顔を見詰めた。
甘っちょろいがやっぱり勇者だな。
ふざけたようだが根は真面目だ。
こう言う男が勇者に相応しいのかもしれない。
「……勝手にしろ。俺も勝手にする」
「ああ。分かっているとも!」
ケンは笑顔を見せると、俺の後に付いて来た。
「そうだ。上の子供たちはどうする?このままだと危険だ」
確かにそうだな。
俺は少し考えてからアニーに連絡した。
「ここに子供たちがたくさん居る。何とかして救援を呼べないか?」
「判ったわ。ミスリル銀山の方から誰か来てもらうわ」
「頼む。座標を送る」
俺はそう言うと、テクノセクトから座標を送らせた。
「ねえ、誰と話してんの?」
ケンが顔を覗き込んでくる。
「仲間に子供たちの救助を頼んだ。その間くらいはテクノセクトたちで保たせられる」
「ふぅーん」
判ったような判らないような顔で、ケンは引き下がった。
まあ、判ってないだろうな。
上手く説明も出来んし。
昔、オオムカデンダルが俺の質問に、『面倒だから説明しない』と良く言っていた。
そうか、そりゃ説明しないわな。
俺はオオムカデンダルの気持ちになって、少し笑った。
男が潰れた自分の膝を見詰める。
大の男が膝一つで情けない顔しやがって。
まだ十歳にも満たない子供を棍棒で殴り付けるような連中が、自分の膝は愛おしいってのか。
俺は余計に腹が立ってきた。
「おい。早く答えろ。お前の膝はもう一つ残っている事を忘れるなよ」
男が恐怖に満ちた顔で俺を見る。
そして、救いを求めるようにケンの顔と見比べた。
「レオ……」
「俺の決意表明はさっき言った通りだ。共感するかどうかはお前の勝手だが、邪魔をするならお前でも容赦はしない」
俺はピシャリとケンの言葉を遮った。
そうなのだ。
俺は秘密結社ネオジョルトの怪人、サフィリナックスだ。
相手が勇者であろうが聖女であろうが、邪魔をするなら容赦はしない。
正義の反対は悪では無い。
正義の反対は『また別の正義』なのだ。
俺はそれをネオジョルトから学んだ。
俺は俺の正義を遂行する。
例え俺の敵が正義の味方だろうと関係無いのだ。
俺には俺の正義がある。
じり
一歩、また一歩と威圧的ににじり寄る。
男は今にも泣き出しそうにケンの顔を見た。
「……ッ」
ケンは断腸の思いで男から顔を背けた。
「そんな……総隊長……!」
「諦めろ。自分の時だけ慈悲が与えられるとは思わん事だ」
俺は男の足下に立った。
「さあ、吐け。吐けば良し。吐かなければもう片方も潰れる事になる」
「わ……判ったああ!判ったから!勘弁して下さいぃ!」
男が鼻水を飛ばしながら泣き喚いた。
「子供たちはぁ……ヒック……労働力と商材に分けられて……ヒック……商材になった方は輸出されるぅ……ヒック……されますぅ」
泣いてんじゃねえよ。
泣きたいのは子供たちの方だ。
「上に居たのは労働力の方か。売られる子供たちはどこだ」
俺は更に問い詰める。
「この奥のぉ……地下水路から……ヒック……王城の……地下の……奴隷用居住地区……ヒック……からぁ……檻に詰めてえ……船で……ヒック……沖まで運んで……大型船に……載せ換える……載せ換えますぅ」
手が込んでるな。
やはり国が関わっていなければここまでは出来ない。
俺はそこまで聞くと、さっさとこの部屋を抜け出した。
「お、おい。待ってよ」
ケンが付いて来る。
「何の用だ」
「何の用って……」
ケンは後ろを振り返りつつ尚も付いて来る。
部下が気になるのか。
優しい男だ。
「別に付いて来なくて構わん。お前の目的は麻薬の密売だろ。こっから先に麻薬は無い」
「まだ何も言ってないだろ」
「じゃあ何故付いて来る。心配なら部下の側に居れば良い。お前がそうしても、俺は別に何とも思わん」
「そんな馬鹿な。放っておける訳ないだろ!」
俺は足を止めた。
「それは俺をか?それとも子供たちをか?」
ケンは一瞬だけ面食らった。
「馬鹿にするな!どっちもだ!」
俺はケンの顔を見詰めた。
甘っちょろいがやっぱり勇者だな。
ふざけたようだが根は真面目だ。
こう言う男が勇者に相応しいのかもしれない。
「……勝手にしろ。俺も勝手にする」
「ああ。分かっているとも!」
ケンは笑顔を見せると、俺の後に付いて来た。
「そうだ。上の子供たちはどうする?このままだと危険だ」
確かにそうだな。
俺は少し考えてからアニーに連絡した。
「ここに子供たちがたくさん居る。何とかして救援を呼べないか?」
「判ったわ。ミスリル銀山の方から誰か来てもらうわ」
「頼む。座標を送る」
俺はそう言うと、テクノセクトから座標を送らせた。
「ねえ、誰と話してんの?」
ケンが顔を覗き込んでくる。
「仲間に子供たちの救助を頼んだ。その間くらいはテクノセクトたちで保たせられる」
「ふぅーん」
判ったような判らないような顔で、ケンは引き下がった。
まあ、判ってないだろうな。
上手く説明も出来んし。
昔、オオムカデンダルが俺の質問に、『面倒だから説明しない』と良く言っていた。
そうか、そりゃ説明しないわな。
俺はオオムカデンダルの気持ちになって、少し笑った。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
勇者断罪物語
ちば防蟲
ファンタジー
「頼む!勇者達を何とかしてくれ!!」
「え?お断りします」
元上司が頼み込んできたが、俺はやんわりと断る。
「そう言わずにさ、助けてくれよ~~」
「いやいや、もう民間人なんで義務ないですし」
断り続けると・・・・
「貴様!国王からの勅命だぞ!それを......否定するというのか!!」
声を荒らげる元上司。
「否定はしてないですって。そもそも、どうして自分なのか分かりません」
「それはだな・・・・。各国に散らばっている勇者達は国民から高い支持を得ているんだ。
悪行は見えないところで・・・って感じだ。だから、国や軍が直接動くわけにはいかないんだよ
で、民間で秘密裏に対応してくれる所はって考えたときに・・・サイト君が浮かんだわけだ」
う~~~む。と考え込むサイト君。
「条件があります。それを飲んでくれれば、考えましょう」
「貴様!!まだ言うか!?」 「ブレグジット殿、落ち着いてください。ここは我慢です」
貴族激高!元上司が宥める構図。なかなか見応えがある。
「分かった。条件だな。今、述べられるか?」
「えっと・・・まず、一つ。経費は国持ちで、あと報酬はこっちで決める。大丈夫、破格な値は出さないので」
うむと元上司。貴族は顔真っ赤。
「次、え~~二つ目!うちの孤児院と学校に協力金を出すこと。未来永劫ね」
むむむと元上司。貴族は・・・血管切れるんじゃないか?
「で!最後に・・・・。これが一番重要です。これを飲んでくれなければ、仕事を受けない」
「申してみよ」
「では、それは・・・・・」
「「それは・・・・?」」
この会談後、貴族が救急医療チームよって運ばれていくのを多くの国民が目撃することとなった。
・・・・となるような正夢を見せられた。今日は波乱な一日となりそうだ。
軍を引退して民間生活を堪能しているサイトが各国の勇者達を成敗!していく。多くの人間を巻き込み、様々な事件に自ら絡んでいく。
さらに勇者とは?という根本的な問題にも絡んでいく。
異世界を舞台にした魔法×現代科学が織り成す断罪ロード!
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する
くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。
世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。
意味がわからなかったが悲観はしなかった。
花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。
そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。
奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。
麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。
周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。
それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。
お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。
全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。
【完結】婚約者様の仰られる通りの素晴らしい女性になるため、日々、精進しております!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のバーバラは幼くして、名門侯爵家の若君と婚約をする。
両家の顔合わせで、バーバラは婚約者に罵倒されてしまう。
どうやら婚約者はバーバラのふくよかな体形(デブ)がお気に召さなかったようだ。
父親である侯爵による「愛の鞭」にも屈しないほどに。
文句をいう婚約者は大変な美少年だ。バーバラも相手の美貌をみて頷けるものがあった。
両親は、この婚約(クソガキ)に難色を示すも、婚約は続行されることに。
帰りの馬車のなかで婚約者を罵りまくる両親。
それでも婚約を辞めることは出来ない。
なにやら複雑な理由がある模様。
幼過ぎる娘に、婚約の何たるかを話すことはないものの、バーバラは察するところがあった。
回避できないのならば、とバーバラは一大決心する。
食べることが大好きな少女は過酷なダイエットで僅か一年でスリム体形を手に入れた。
婚約者は、更なる試練ともいえることを言い放つも、未来の旦那様のため、引いては伯爵家のためにと、バーバラの奮闘が始まった。
連載開始しました。
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!
椿蛍
ファンタジー
【1章】
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。
――そんなことってある?
私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。
彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。
時を止めて眠ること十年。
彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。
「どうやって生活していくつもりかな?」
「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」
「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」
――後悔するのは、旦那様たちですよ?
【2章】
「もう一度、君を妃に迎えたい」
今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。
再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?
――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね?
【3章】
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』
私がリアムの婚約者!?
リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言!
ライバル認定された私。
妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの?
リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて――
【その他】
※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。
※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました
ゲンタ
ファンタジー
転生したら、荒れ地にポツンと1人で座っていました。食べ物、飲み物まったくなし、このまま荒野で死ぬしかないと、途方に暮れていたら、ドラゴンが助けてくれました。ドラゴンありがとう。人族からエルフや獣人たちを助けていくうちに、何だかだんだん強くなっていきます。神様……俺に何をさせたいの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる