見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七八〇

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「グウウ……グアアアッ!」

 グールもケンを見るなり問答無用で襲い掛かる。

 ひゅばっ!

 ケンはグールが何もしないうちに高速で抜刀すると、そのまま袈裟斬りに斬り捨てた。
まさに瞬殺だ。

 しかしどう考えてもモンスターのレベルが低すぎる。
こんな物がいったい何の役に立つと言うのか。
トラップの意味すら為していない。 

 ケンがグールにくるりと背を向けた。
鞘に剣を戻そうとしたその時。

 りんごーん!
りんごーん!

 まただ。
これは何か意味があるのか。

 しゅー
しゅー

 また同じように煙が噴き出す。
俺とケンは、もう慣れたと言うようにモンスターの出現を待った。

「ぐ……ぐぐ……」

 今度こそゾンビーだった。
ケンは眉一つ動かさず、出現した瞬間にゾンビーの首を横一文字に薙ぎ払った。

 ごんっ
ごろごろ

 ゾンビーの頭が地面に落ちて転がる。

「次は何だ?」

 ケンはもはや納刀しようとさえしなかった。
どうせまた出るんだろ、と言わんばかりだ。 

 りんごーん!
りんごーん!

 そしてそれはその通りだった。
いったいいつまで続くのか。
まさか永久になんて事はあるまい。
これがトラップなのだとしたら、タネはいずれ尽きる。

 ざしゅっ!

 りんごーん!
りんごーん!

 ずばっ!

 りんごーん!
りんごーん!

 出現してはケンが瞬殺するを、何度も繰り返す。

ゴースト
ファントム
スペクター
ドラゴントゥースウォーリアー
マミー

 そして今、ドラウグルがケンの手によって斬り捨てられた。

「ファントムやらドラウグルやら、良く斬れるな。何だその剣は」

 俺は感心してケンに尋ねた。
普通の剣ではほとんどダメージは通らない。
なぜなら奴らは霊体の要素が強いからだ。
これを実剣で斬るのは相当な体力と粘り強さが求められる。
一〇〇回斬ってもダメージは半分にも届かないだろう。
霊体系のモンスターには普通は神職が当たるのが一般的だ。
神聖魔法は霊体系やアンデッドモンスターに対して絶大な威力を発揮する。

 故にパーティーに神職が居ない場合は、逃げるのが最善策だ。
戦っても良い事など何も無い。
神職が居ると居ないとでは、攻略難易度が全く違う。
かなり偏った性質のモンスターなのだ。

 それをこうもあっさりと斬り捨てられるのは、剣に特殊な属性か魔法が付与されていると踏んだのだ。

「えへへ。良いだろうこれ。いわゆる勇者の剣だね。代々我が家に伝わるありがたーい剣なんだよ」

 勇者の剣ねえ。
眉唾だがこうも威力を目の当たりにすると、認めざるをえない。
由緒正しき聖剣と言うのは本当に在るのだな。

 そんな事を考えて、俺は突然気が付いた。
出現モンスターは少しずつ強くなってきている。
そしてそれは全てアンデッドモンスターに分けられる。

 なんだ。
アンデッドモンスター専用の召喚トラップなのか。
と言うことは。

 りんごーん!
りんごーん!

 鐘が鳴った。
また次のが現れる。

 しゅー
しゅー

「おおっと、こいつは……」

 ケンが珍しく動揺した。
現れた男はマントを勢い良く翻した。
長身痩躯、青白い顔、光る両眼。
そして口元から覗く長い犬歯。

 ヴァンパイアだ。

「んふふふふ」

 ヴァンパイアが不敵に声を漏らす。

「こんなのもアリなの?」

 ケンが俺を振り返る。

「たぶんアンデッドと言う括りでモンスターを召喚している。倒せば倒すほど、より高位のアンデッドモンスターが出て来る仕組みなんだろう」

「それは……」

 さすがにケンも何かを察した。
この流れで倒し続けると、最終的にはどうなるのか。

「倒さない方が良いのかな?」

「じゃあ野放しにして、好き勝手させておくか?」

 そんな訳にはいかないだろう。
俺はともかくケンは人間だ。
倒さなければ一方的に蹂躙される。
つまり死ぬと言う事だ。

「これって、チェックメイト掛かってない?」

 ケンが旗色の悪さに冷や汗を流す。
俺は返事に窮した。
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