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七五一
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軽く駆け足で表に出ると、俺はボードを呼び出した。
ヒラリと足下に滑り込んでくるボードに、俺は自然に飛び乗った。
全く止まる事無く、ボードはそのまま空へと滑り出す。
ぐんぐんと高度を上げて視界の端に映し出された光の点へと向かう。
そこまで遠くは無い。
と言っても、緑の谷は人の進入を拒絶する。
そう簡単に先へ進めるような場所では無い筈だ。
それでも光点は先へ先へと進んでいた。
小さな光点はあまり速くないが、止まる事無く真っ直ぐにこちらへと向かっている。
追っ手とみられる光点は、それなりに速さはあるが時折ウロウロと時間をロスしている。
これは追っ手が獲物を見失っているな。
それでも正確に追跡出来ているのは、中にレンジャーの類が居るのだろう。
しかも中々優秀だ。
俺は高度を落として下を凝視する。
暗闇の中でも俺の目は利く。
離れた所に光が見える。
あれが追っ手か。
ならば逃げているとすれば、この辺りに居そうだな。
俺は耳も澄まして対象を探した。
はっ
はっ
はっ
はっ
息遣いが聞こえる。
居るな。
俺はボードから飛び降りた。
ざんっ
森の中へと舞い降りる。
「!?」
今走ってきたばかりの呼吸が、驚いて息を吞むのが聞こえた。
「誰だ。お前」
俺はその人物の顔を見た。
子供?
俺は小柄な逃走者に面食らった。
子供がこんな時間に緑の谷を走るなど、ちょっと考えられない。
しかも追われているだと。
遠くを見ると光源が近付いて来るのが見える。
どうも冒険者のようには見えない。
だとすれば夜盗か盗賊か。
こんな状況で逃げる子供を追い掛けるのは中々難しいだろう。
小さくてすばしっこくて、考え無しにどんどん森に入っていく子供は、大人が追うには骨が折れる。
ここまで逃げてきた事には感心するが、良くもこんな深くまで来れたものだ。
もっと早い段階で死んでいても、何の不思議も無い。
何と言ってもここは緑の谷だ。
この少年は、ただただ幸運だったとしか言いようが無い。
「おいお前。何をしでかしたんだ?」
俺は半ば呆れながら少年に尋ねた。
「……!」
それには答えず、少年は再び走り出す。
おっと、そうは行かない。
方向を転換した少年の前に俺は回り込んだ。
「!?」
「こんな所でお前なんか一日も保たんぞ。送ってやるから帰れ」
「……!」
無言のまま少年は再び方向を転換する。
やれやれ。
ザザザッ
再び回り込んで行く手を塞ぐ。
しかし。
長い年月閉ざされて来たこの谷に、こうも人が進入している事に俺は違和感を覚える。
偶然とは言え、ここまで大人数が進入して来れるものなのか。
「……けて」
なに?
「助けて……神さま」
どさっ
そう呟いたきり、少年は力尽きて倒れた。
ヒラリと足下に滑り込んでくるボードに、俺は自然に飛び乗った。
全く止まる事無く、ボードはそのまま空へと滑り出す。
ぐんぐんと高度を上げて視界の端に映し出された光の点へと向かう。
そこまで遠くは無い。
と言っても、緑の谷は人の進入を拒絶する。
そう簡単に先へ進めるような場所では無い筈だ。
それでも光点は先へ先へと進んでいた。
小さな光点はあまり速くないが、止まる事無く真っ直ぐにこちらへと向かっている。
追っ手とみられる光点は、それなりに速さはあるが時折ウロウロと時間をロスしている。
これは追っ手が獲物を見失っているな。
それでも正確に追跡出来ているのは、中にレンジャーの類が居るのだろう。
しかも中々優秀だ。
俺は高度を落として下を凝視する。
暗闇の中でも俺の目は利く。
離れた所に光が見える。
あれが追っ手か。
ならば逃げているとすれば、この辺りに居そうだな。
俺は耳も澄まして対象を探した。
はっ
はっ
はっ
はっ
息遣いが聞こえる。
居るな。
俺はボードから飛び降りた。
ざんっ
森の中へと舞い降りる。
「!?」
今走ってきたばかりの呼吸が、驚いて息を吞むのが聞こえた。
「誰だ。お前」
俺はその人物の顔を見た。
子供?
俺は小柄な逃走者に面食らった。
子供がこんな時間に緑の谷を走るなど、ちょっと考えられない。
しかも追われているだと。
遠くを見ると光源が近付いて来るのが見える。
どうも冒険者のようには見えない。
だとすれば夜盗か盗賊か。
こんな状況で逃げる子供を追い掛けるのは中々難しいだろう。
小さくてすばしっこくて、考え無しにどんどん森に入っていく子供は、大人が追うには骨が折れる。
ここまで逃げてきた事には感心するが、良くもこんな深くまで来れたものだ。
もっと早い段階で死んでいても、何の不思議も無い。
何と言ってもここは緑の谷だ。
この少年は、ただただ幸運だったとしか言いようが無い。
「おいお前。何をしでかしたんだ?」
俺は半ば呆れながら少年に尋ねた。
「……!」
それには答えず、少年は再び走り出す。
おっと、そうは行かない。
方向を転換した少年の前に俺は回り込んだ。
「!?」
「こんな所でお前なんか一日も保たんぞ。送ってやるから帰れ」
「……!」
無言のまま少年は再び方向を転換する。
やれやれ。
ザザザッ
再び回り込んで行く手を塞ぐ。
しかし。
長い年月閉ざされて来たこの谷に、こうも人が進入している事に俺は違和感を覚える。
偶然とは言え、ここまで大人数が進入して来れるものなのか。
「……けて」
なに?
「助けて……神さま」
どさっ
そう呟いたきり、少年は力尽きて倒れた。
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