見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七五〇

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「俺は魔法も科学もどっちも判らん。君がそうしたいと思うようにすると良い。俺は賛成だ」

「良かった。そうすればこれからは私も貴方を助けられる」

 俺を。
そんな事を思っていたのか。
別に気にしなくても良いのに。
俺はそう思ったが、彼女はそう言う人なのだ。
そして、そこも俺が彼女に惹かれる理由でもある。
ただし、たくさんある理由の中の一つであるが。

「そう言えばナイーダの姿が見えないが。彼女は今でもここに居るんだろう?」

「ええ。でもたぶん後二、三日は出て来ないと思うわ」

 二、三日?
なんだ。
出掛けているのか。

「ううん。研究資料をまとめているんだと思うわ。あの子、とても熱心なのよ」

 蜻蛉洲の手伝いをしていると言っていたが、ミイラ取りがミイラになった例か。
もともとモンスターの生態には詳しかったが。

「学者さんになりたいみたいよ」

 ナイーダが学者に。
でもそれはピッタリのような気もするな。
彼女はとても一生懸命だ。
粘り強く、ガッツもある。
きっと良い学者になるだろう。

「貴方は……?」

 え?

「貴方は何になるの?」

「俺は……」

 言いかけて言葉に詰まる。
俺は何に成るのだろう。
もう子供と言う訳では無い。
むしろ今俺は、いったい何になっているのだろうか。

 冒険者とは言い難い。
かと言って傭兵でも無い。
世の中の役に立つ立派な大人かと言われれば、むしろ国家とは敵対関係だし、世界の平和をひっくり返そうとしている側だ。

「ホント、何してるんだろな……俺」

 答えが見つからなくて自然と声が小さくなった。
妹もまだ救えていない。

「レオ」

 彼女は俺の手を、そっと握った。

「大丈夫よ。私と貴方が居れば、何でも出来るわ」

 何でも。

「私が居れば貴方はもっとどこまでも行ける」

 励ましてくれているのか。
俺は情けないな。
もっとしっかりしなくては。

「ああ、そうだな。君さえ居れば、俺はどこまでも行けるよ」

「貴方の妹も二人で救える」

「アニー……ミーアの件を知っているのかい?」

「ええ……私はここからずっと貴方を見ていた。貴方がどうしてきたか、箱の中からずっと見ていたわ」

 そこまで言い掛けて、アニーがピタリと動きを止めた。
俺は不意に彼女の顔を見る。
無表情の仮面。
そこから気持ちを読み取る事は難しい。

「……誰かが近付いて来るわ。七人……ううん、八人」

 アニーが突然そんな事を言いだした。
俺も自分のセンサーを見た。
確かに反応がある。
だが、まだ少し遠いようだ。
反応も小さいし、俺には七人にしか感じられないが。

「小さな反応が先にあるの。それに続くように七つの反応がこちらに迫っているみたい。でも……」

 でも?

「おかしな動き方。真っ直ぐこっちを目指している訳じゃ無いみたい」

 緑の谷に人が来る事などほぼ無い。
ましてやパーティーが来るなんて理由が無かった。
地図にも載らないような辺境の地なのだ。
忘れ去られた地だと言っても良い。

「それは……追われているんじゃないのか?」

 俺はアニーに言った。

「そうだわ。この小さな反応を他の七つが追っているんだわ」

 あんまり愉快な展開じゃ無さそうだが。

「俺が見てこよう」

 俺は席を立った。
そして、立ち上がろうとするアニーを制する。

「ここに居てくれ。すぐ戻る」

 そう言って俺は屋敷を出た。
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