見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
748 / 826

七四七

しおりを挟む
 俺は屋敷へと歩み寄る。

 がちゃ

 取っ手を引くと、扉はゆっくりと開いた。
開きっぱなしだったのか、不用心だな。
俺はおずおずと中へ足を踏み入れる。

 そんなに昔と言う訳でも無いのに、とても懐かしい気分になる。
俺は広間に足を運んだ。

 きぃ……

 当たり前だがここにも誰も居ない。
来て早々何だが、やる事が無い。
特に命令もされていない。
『行け』と言われたから来ただけなのだ。
いったいここで何をしろと言うのか。

 俺はオオムカデンダルがいつも座っていた場所へ腰掛けた。
居ないのだから別に構わんだろう。
彼よろしく、くるくると椅子を回してみる。
さて、これからどうしたものか。

「管理人。済まないが何か飲み物をくれないか。冷たい物が良い」

 俺は管理人に声を掛けた。
昔は飲み物と言えば水か果実酒かミルクと決まっていたが、ネオジョルトのせいで舌が贅沢になっていた。
飲み物が冷たいだなどと言うのは、ネオジョルトでしか通用しない。
普通は温かいか常温だ。
冷たいのに慣れると生ぬるい牛乳など、とても飲めた物では無い。

「おーい、管理人」

 俺はもう一度呼び掛けた。
返事がない。
管理人はミスリル銀山と繫がっているんじゃ無かったのか。
両方兼任だったと思うが。

「おーい、管理人。聞こえないのかい?」

 俺は不思議に思ってもう一度声を掛けた。

 きぃ……

 ドアが開く音がした。
振り返るとそこには飲み物を手にした女が立っている。

 誰だ。

 俺は少し身構えた。
女はそのまま、静々と歩いてくる。

 かたっ

 テーブルの上にゆっくりと飲み物を置いた。
よく冷えたフルーツジュースだ。
中々値の張る高級な嗜好品だが、俺の好物でもある。
よく知っていたな、さすがは管理人だ。
だが、管理人に好物の話をした事は無かったと思うが。

 いや、その前にこの女は誰だ。
まさか、部外者が出入りしている訳ではあるまい。
知らない奴が飲み物を出してくれるのも変な話だ。

「君は誰だ」

 俺は尋ねた瞬間、思い出した。
ナイーダだ。
確か緑の谷で親元を離れて暮らしていると聞いていた。
勉強しながら蜻蛉洲の手伝いもしていると言っていたが、そうか。

 だが、それにしては雰囲気が違い過ぎる。
何と言うか、急に大人になった印象だ。
こんなに変わる物なのか。
女性というのは判らないな。

 俺は思わず立ち上がっていたのを、再び座り直した。
それにしても一言もしゃべらないな。
機嫌でも悪いのだろうか。

 俺は手を伸ばして飲み物を一口飲んだ。
旨い。
ネオジョルトが作る物は何だって旨い。
フルーツジュースであっても、それは変わらない。
冷たい。
とても、良く冷えたフルーツジュースだ。

「旨いな」

 俺は思わず言葉を漏らした。
無意識に口に出てしまうほど旨かった。

「良かった。口にあって」

 女が言った。
ナイーダじゃない。
俺はギクッとして女の顔を見た。
よく見れば素顔では無い。
良く出来た仮面のような物をかぶっている。

 いや、マジで誰なんだ!?
俺は内心飛び上がるほどに驚いた。
態度に出なかったのはたまたまだ。
俺だって大抵の事には驚かない。
だが、絶対に敵など居ない筈の場所で、正体不明の人間に出会ったら、誰でもこのくらいは驚く筈だ。

 女が小首をかしげた。
俺の顔を見ているのか。

「君は……」

 俺は小さく尋ねた。

 くすくす……

 女が小さく笑った。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代に生きる勇者の少年

マナピナ
ファンタジー
幼なじみの圭介と美樹。 美樹は心臓の病のため長い長い入院状態、美樹の兄勇斗と圭介はお互いを信頼しあってる間柄だったのだが、勇斗の死によって美樹と圭介の生活があり得ない方向へと向かい進んで行く。

三度目の創世 〜樹木生誕〜

湖霧どどめ
キャラ文芸
国単位で起こる超常現象『革命』。全てを無に帰し、新たなる文明を作り直す為の…神による手段。 日本で『革命』が起こり暫く。『新』日本は、『旧』日本が遺した僅かな手掛かりを元に再生を開始していた。 ある者は取り戻す為。ある者は生かす為。ある者は進む為。 --そして三度目の創世を望む者が現れる。 近未来日本をベースにしたちょっとしたバトルファンタジー。以前某投稿サイトで投稿していましたが、こちらにて加筆修正込みで再スタートです。 お気に入り登録してくださった方ありがとうございます! 無事完結いたしました。本当に、ありがとうございます。

処理中です...