見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六九七

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「話だと?胡散臭いにも程がある」

「まあ、そう言うなよ。悪い話じゃ無い筈だ……たぶん」

「……一応言ってみろ」

 ライエル将軍が溜め息混じりに言った。

「なあに、うちと姉妹都市契約でも結ばないかと思ってね」

「……うちってのはお前の所の組織か?」

「そうだ」

「なぜ栄光あるイスガン帝国が盗賊団と姉妹都市を締結せねばならんのか……ん、姉妹都市?」

 ライエル将軍の表情が更に曇る。

「ちょっと待て。お前の組織は都市じゃ無かろう。なんだ姉妹都市の締結と言うのは」

「西の繁華街だよ。名前ももっと呼びやすく変えようかと思案中だが」

「ふざけるな。西の繁華街は帝国領だ。勝手に自分の領地にするな」

「アンタと話しても埒があかないのは判ってる。だから皇帝に会わせろと言っている」

「会わせられるか!」

「良いじゃねえか。知らない仲じゃ無いんだし」

「貴様、友達だとでも思ってるのか?」

「ニーズヘッグから守ってやったろ?」

 ライエル将軍のこめかみで、血管がピクピクと動いているのが見える。
なんでもっと上手く言えんのか。

 ライエル将軍の左手が、剣の鞘を握りしめた。

「やる気か。良いぜ。そう言うのも嫌いじゃない」

 オオムカデンダルがニヤリと笑う。

「修復中の城がまた壊れる事になるが仕方がないな?」

 ライエル将軍が苦虫を噛み潰したような顔になった。
管理職の辛い所だな。

「……少し待て。こちらにも用意と言う物がある」

「いいとも」

 オオムカデンダルはにこやかにそう言うと、笑顔でライエルを見送った。
誰かに相談に行くのだろう。
まさか皇帝に直接伝えるのか。
その背中には悲哀が感じられる。

 城門前で数百の兵士に取り囲まれて、オオムカデンダルは終始にこやかだった。
どのくらい経っただろうか。
ずいぶん待ったが、ようやくライエル将軍が戻ってきた。

「長かったじゃないか。待ちぼうけを食らわされるのかと思ったぞ」

 オオムカデンダルが言う。

「仕方あるまい。案件が案件だからな」

「で、どうなったんだ」

「皇帝陛下は会われない」

「……ほお」

「……代わりにソル殿下がお会いになる」

 ソル皇子が?

「たまたま皇子が同席されていて、自分が会おうとおっしゃられた」

 運が良いのか何なのか。
だが、オオムカデンダルの顔は今一つ明るくない。

「直接会わんと、皇帝が言ったのか?」

「いや、いきなり陛下にお目通りなど叶う筈無いだろう。ソル殿下がお会いになられるだけでも破格の対応だと心得よ」

 確かにそうだ。

「……ま、良いだろう。案内してくれよ」

「偉そうにしおって……」

 ライエルはまた溜め息を吐いて、歩き始めた。
城門を潜り、正面から堂々と場内へと入る。
ここへは何回か来たが、いつもコソコソしていたな。
俺は感慨深く場内を進んだ。

「ここだ」

 ライエルはソル皇子の部屋の前で立ち止まった。
俺は知っている。
最近ここへは出入りしていたからな。

「殿下、オオムカデンダルを連れて参りました」

「うむ。入って良いぞ」

 ソル皇子の声が室内から聞こえた。
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