見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六八九

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 ゴワロガラガラッ!

 岩盤が砕ける。
俺ごと持ち上げて天井を粉砕した。
信じられない熱と圧力が俺をプレスする。

「ぐはっ!」

「はっはっはっはっ!死ねえっ!」

 バルログの高笑いが遠くに聞こえた。
もっとも近い音は、溶岩の流れる音と岩の砕ける音だった。
噴水だか噴火だか判らないが、とにかく炎の噴き上がる力は更に増していく。

  ボコワッ!

 突然圧力が弱まった。
同時に俺の体が宙に舞う。

 どさっ!

「く……!」

 なんだ。
何がどうなった。
目を開くとまぶしい陽射しが視界に入る。
ここは、外か。

 俺は辺りを見回した。
間違いない、ここは外だ。
目の前から炎が噴き上がるのが見えた。
あそこから地面を突き破って、放り出されたのか。

 流れ出た溶岩が川へと流れ出す。

 ジュジュジュワアアアアア!

 真っ白な水蒸気が大量に発生した。
ややあって、炎の噴出が収まった。

 出てくるな。

 俺はバルログが現れるのを待って身構えた。

「ほお」

 現れたな。
穴から上がってきたバルログが俺を見つけて声を漏らす。

「死体を確認しに来たのだがな。まだ生きているのか」

「残酷な事に俺は死ねないんでな。ずっとお前と殺り合えるぜ」

 バルログが一瞬、間を作った。

「それだけ大口が叩けるのなら、まだ遊べそうだな」

 どうやら軽口と受け取ったようだ。
本当にずっとやれるんだぜ。

「さて、もっと楽しませてもらおうか」

 バルログがニヤリと犬歯をむき出して笑った。
コイツが暴れるだけで、この辺りは森林火災になってしまう。
早めに何とかした方が良いな。

「いつまでも自分だけが有利だなんて思うなよ」

「んぁ?ああ、外に出たからはしゃいでいるのか」

 どこまでも尊大な態度だな。
悪魔なんてドイツもコイツもこんな感じだな。
だが、俺も少し落ち着いた。
考えもまとまってきた所だ。

「行くぜ」

 俺は再びバルログに襲い掛かる。

「同じ事の繰り返しよ!」

 バルログも同じく三叉戟で応戦する。

 ぼっ!

 無詠唱ファイヤー・ボールか。
避けたら大規模森林火災だな。

「スクリューシェイブクロウ!」

 俺は回転させた手首をファイヤーボールに向けた。

「うらアッ!」

 気合いもろともスクリューシェイブクロウを叩き付ける。

 ドゴオオォンッ!

 激しい爆発が起こる。
下位火炎魔法のファイヤー・ボールでこの威力はどうだ。
とても無詠唱で放たれる力とは思えない。

 暴風のような爆風が吹き荒れる。
だが、俺は構わずにこのまま突っ込んだ。
これ以上、辺り一面にファイヤー・ボールを撒き散らさせない。

「うおっ!?」

 抜けた爆炎の向こう側に、驚いたバルログの顔があった。

「ザマミロ」

 どがあっ!

 俺がそう言うと同時に、スクリューシェイブクロウがバルログの胸に突き刺さる。

「ぐっ!……ククッ!」

 自分の胸を貫いた俺の腕を、バルログが両手で握りしめた。
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