見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
678 / 826

六七七

しおりを挟む
「理由は幾つかあるが……同性で無ければ憑依出来ない。それから波長が近くなければこれも無理だ」

 誰にでも憑ける訳では無いのか。

「後は、その辺の人間では襲われた時に身を守れん。王女なら護衛も充実しているからな、少しはマシだろ?」

 その為にどれだけの兵士が死ぬと思っているんだ。

「それに権力があった方が、無いよりも良いと思ってな」

 もう良い。
これ以上ヴァルキリーの言う事を聞いていたくない。

「……なるほど」

 オニヤンマイザーが納得したように返事をした。

「話は判ったが、それが我々に何の関係があるのかね?」

「なに?」

 オニヤンマイザーが冷たく突き放した。

「まあ、百足ならおかしな事を言い出す可能性もあるが、僕は君を好きじゃない。九条晃が断った以上、僕らは君とは何の関係も無い」

「待ってくれ……!」

「いいや、待たない。僕らには『敵』か『味方』か『服従』かの三つしか無い。君は味方では無いし、敵で無いと言うのなら服従してもらうしかない。僕らの庇護の下で暮らす住民のようにだ。もちろんネオジョルトの為に働いてもらって、その替わりに守ってやると言う関係だ」

 オニヤンマイザーがヴァルキリーを冷たく見据える。

「出来るかね?君に。無理だろう。神に仕える身ならば尚更だ。我々以外に仕えるべき主を持つ者などネオジョルトには必要ない。ネオジョルトにのみ服従を誓えないのなら去るが良い」

 見事だ。
さすがは蜻蛉洲と言ったところか。
板に流れる水の如しだ。

「晃もそれで良いな?」

「……ああ」

 九条晃はそう言うと、無言で踵を反した。

「レオ。ジャバウォックとヒポグリフを積み込んでくれ」

「あ、ああ。判った」

 俺はオニヤンマイザーの言葉に慌てて頷く。
その時。

「た、大変です!」

後方から兵士が走って来た。

「どうした」

「何者か判りませんが、後方から魔物の攻撃を受けています」

「なに?ちっ……感づかれたか」

 ヴァルキリーは舌打ちをした。

「ウィザードに攻撃させろ。出し惜しみするな。敵の規模は?」

「そ、それが魔法使い一人です!」

「リッチか……!」

 真っ昼間からリッチが攻めて来るとは。
にわかには信じ難いが。

「伝令ー!」

 更に兵士が馳せ参じる。

「魔法が全く効きません!」

 魔法を操る事に関してはリッチ以上の存在は居ない。
高位魔法職であるウィザードを以てしても、リッチにとっては赤子同然だ。

 魔法職ならドラゴンクラスのセイジでやっと話になるかどうかだろう。
つまり、うちの賢者サルバスだ。
それでも互角とまでは言えまい。
ウィザードが何人束になろうと敵う筈が無かった。
リッチとはそれほどの存在なのだと言う。

「た、頼む!力を貸してくれ!」

 ウィザードが地面に跪いてオニヤンマイザーに懇願した。

「な、サンドラ様……!?」

 兵士たちが驚いた。
無理も無い。
盗賊団と思っていたネオジョルトに、自国の王女が頭を下げたのだ。

「……」

 オニヤンマイザーは無反応だ。

「……少し恩を売ってやればどうだ」

 仕方無くと言った雰囲気で、九条晃がオニヤンマイザーを促す。

「頼む!」

 王女は地面へと頭をくっ付けた。
山よりもプライド高いくせに、ここまでやるのか。
ヴァルキリーにはヴァルキリーで、どうしてもここでは死ねない訳があると言う事か。

「ふぅ……仕方が無い。ただし恩には着てもらう。良いな?」

「あ、ああ。判った!」

「ふふ、良い返事だな」

 オニヤンマイザーはそう言うと、羽を広げて真上へと飛び立った。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

三度目の創世 〜樹木生誕〜

湖霧どどめ
キャラ文芸
国単位で起こる超常現象『革命』。全てを無に帰し、新たなる文明を作り直す為の…神による手段。 日本で『革命』が起こり暫く。『新』日本は、『旧』日本が遺した僅かな手掛かりを元に再生を開始していた。 ある者は取り戻す為。ある者は生かす為。ある者は進む為。 --そして三度目の創世を望む者が現れる。 近未来日本をベースにしたちょっとしたバトルファンタジー。以前某投稿サイトで投稿していましたが、こちらにて加筆修正込みで再スタートです。 お気に入り登録してくださった方ありがとうございます! 無事完結いたしました。本当に、ありがとうございます。

元悪の組織の怪人が異能力バトルなどに巻き込まれる話(旧題:世の中いろんなヤツがいる)

外套ぜろ
ファンタジー
 狼谷牙人は、いわゆる「悪の組織」に改造手術を受けた「悪の怪人」だった。  その組織が正義のヒーローに敗れて滅亡してからはや一年。正体を隠してフリーター生活を送っていた彼は、ひょんなことから路地裏で「異能力」を操る者たちの戦闘に巻き込まれる。 「君の力も、異能力だ」 「違うな」  謎の勘違いをされた牙人は、異能力の世界へと足を踏み入れることになる……。  どうやら、この現代社会には、牙人のように「不可思議な事情」を抱えた者たちがそれなりに暮らしているらしい。  ——これは、そんな彼らの織り成す、少し変わった青春の物語。  不定期更新。  カクヨム、小説家になろうでも連載中。

処理中です...