見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六六四

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 殺せば、か。

 オオムカデンダルは秘密結社の幹部だ。
邪魔になるなら排除する事を躊躇などするまい。
この組織の緩い雰囲気に時々をそれを忘れてしまう。
ネオジョルトは、別に思い付きで世界征服をしようとしている訳では無い。
……たぶん。

「その時の判断は任せる。とりあえず行くぞ」

 俺はそれだけ伝えると、木の上からジャバウォック目掛けて飛び掛かった。

 がっ!

 飛び蹴りがジャバウォックの顔を捉える。

「!?」

 兵士たちは驚いて目を白黒させた。

「な、誰だ!?お前は!」

「……変身」

 俺はそう言うと、その場でクルリと回転する。
正面に戻ると、俺の姿は一瞬でサフィリナックスへと変わっていた。

「ば、化物!?」

 兵士の言葉を無視して俺はジャバウォックに挑み掛かる。

 だっ!

 地面を蹴って駆け出す。
さっきのキックなど一ミリも効いていない事は明らかだ。
だが、本番はここからだ。

「とおっ!」

 飛び上がってジャバウォックの頭に膝蹴りを叩き込んだ。
目測で三メートル半と言ったところか。
ドラゴンに比べれば十分に小型だ。
しかし、モンスターとしては中型から大型に分類されるサイズだ。
生身で相手にするにはちょっと骨が折れる。

「キシャアアアア!」

 ジャバウォックが怒りをあらわにする。

 ばっ!

 翼が開いた。
ドラゴンの翼に形状は酷似している。
龍の眷族である事は間違い無さそうだな。

 ジャバウォックが翼を羽ばたかせて宙に舞い上がる。
空か。
俺は飛べないんだぞ。
地上からジャバウォックを見上げるしか無い。

「今のうちに撤退しろ。空からだと守りきれん」

 俺は兵士たちにそう告げた。

「しかし……!?」

 使命感か、正義感かは判らないが、兵士たちは撤退を渋った。

「サフィリナックスヒューイット!」

 俺は手首から触手を伸ばすとジャバウォックの首に絡ませた。

「キシャアアアアググ!!」

 ジャバウォックの首からわずかに煙が立ち上る。
しかし、強固な鱗に阻まれて毒は注入できない。
表面で毒が流れて、それがわずかに鱗を溶かしただけだった。

「キシャアアアア!キシャアアアア!」

 怒ったのか。
ジャバウォックが力強く上昇した。

「うおおっ!?」

 俺は引っ張られるように空中へと吊り上げられる。
見る間に地面が遠くなった。

「くそ……この野郎!」

 俺は右手でぶら下がったまま、何とかジャバウォックに近付こうともがく。

 ギューン

 グングンと上昇したジャバウォックが、突然弧を描いて反転する。
俺はジャバウォックの尻尾のように、振り回されて後を追う事しか出来ない。

「うおああっ!」

 一気に地面が近付く。
俺を地面に叩き付けるつもりだ。

「ブルルルアアッッ!」

 どかあっ!

「うおお!?」

 いななきが聞こえたかと思った瞬間、凄まじい衝撃が俺を襲う。
ジャバウォックごと吹き飛ばされて、錐揉みしながら墜ちていく。

 なんなんだ!?
俺は必死に辺りを見回す。

「グリフ……ヒポグリフ!?」

 ヒポグリフの燃える目が、爛々とこっちを見下ろしている。
あれの体当たりを食らったのか。

 鼻息から炎が見え隠れする。
相当の興奮状態だ。
縄張りを荒らされた思っているのか。

 だが、今はタイミングが悪い。
二体相手に兵士たちを守りきれない。
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