見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六六〇

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「さて。では諸君らの仲間入りを嬉しく思う。各自の健闘を期待する」

 オオムカデンダルはそう言うと、とりあえず場を締めた。
俺は晃から敵のアジトの説明を受けた。

「……遠いな」

 アジトの場所は意外と遠い。

「以前お前たちに嗅ぎ付けられたからな。用心深くなっているのさ」

 だがあの時は一歩遅かった。
踏み込んだ時にはもぬけの殻だったのだ。

「位置を特定しただけでも見事な物だ」

「あれは管理人がやったんだ。俺じゃない」

「……ネオジョルトの人工知能か。ここで一番恐ろしいのは管理人だな」

 晃がため息混じりに言った。
実は俺もそう思っている。
直接の戦闘力は無いが、補って余りある力を管理人は発揮する。

「で、どうする気だ。闇雲に踏み込んでもどうにもならんぞ。あの時はリッチもバルログも勝手に出歩いていて協力的では無かったが、現在奴らは旗色が良くない。本気でこっちを警戒している」

 そんな強敵を二体も同時に相手は出来ない。
各個撃破は絶対条件だが。

「皆さん。王国側からミスリル銀山に接近してくる大軍があります」

 突然、管理人の声が屋敷内に響き渡った。

「なんだと?」

 俺はすぐに壁に掛かった巨大なモニターに目をやった。
そこには帝国の反対側のルートから、国境付近に位置するこのミスリル銀山目掛けて、大軍が進軍してくるのが映し出された。

「どこの軍勢だ」

 オオムカデンダルが尋ねた。

「あの旗印はカッパー王国だな」

 カルタスが言う。
普通に王国軍が進軍してきただと?
帝国に対してか。
それとも。

「ただの通過点かもしれんが……」

 オオムカデンダルがアゴに手を当てて考える。

「普通に考えれば麓で迂回して帝国へ向かうか、その他の地域へ向かうかだろう?わざわざこのミスリル銀山を越えて行こうと言う馬鹿はいない」

 カルタスが鼻で笑う。
確かにそうだ。
普通ならばな。
だが、最初から目的地がここである場合は話は別である。

「王国にも俺たちの名は知れ渡っているのかね」

 オオムカデンダルが呑気な事を言った。

「当然知られている。今や人々の噂話にネオジョルトの存在は欠かせない。ここに移住してくる連中の数を見てみろ」

 晃が言う。
そりゃそうだ。

「じゃあ、連中の目的が俺たちって可能性もゼロじゃ無いのか……」

 カルタスが呆然とした。

「どうする?」

 俺はオオムカデンダルに尋ねた。

「そうさなあ……」

「僕が行こう」

 オオムカデンダルが考える間も無く、蜻蛉洲が立ち上がった。
珍しいな。

「お、行ってくれるのか?」

「お前が行くと余計に話がややこしくなるからな。ただ通過するだけなら黙って見守るだけだ」

「そうで無ければ?」

「この魔物だらけの山に登ってこられたら、相手をしよう」

 蜻蛉洲はそう言って白衣を翻した。

「レオ。君も付いて来い」

 なんだ。
俺も行くのか。

「当たり前だろ。僕は幹部、君は行動隊長だ」

 やれやれ。
どこの職場も管理職は楽では無いな。
俺は蜻蛉洲の後を追った。
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