見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六四三

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 こんな物か。
いや、そんな筈は無い。
今のはたぶん、マンモンの挨拶だろう。
やってくれるな。

 レーダーには何の反応も無かった。
やはり、実体を伴っていなければ反応はしないらしい。

 通路が広い。
横幅だけでも立食パーティーが開けそうな程だ。
今までの建物と違って内装にも汚れた所は見られない。
全て綺麗に手入れされており、調度品はどれも最高級品のように見える。

「悪魔ってのは成金趣味なのか?」

 カルタスが言った。
そうなのか?
そんな話は聞いた事が無いが。

 この馬鹿みたいに広く長い通路の突き当たりに、巨大な絵画が飾られている。
この距離から見てもその巨大さは一目瞭然だ。

「なんだありゃあ」

 カルタスが目を凝らす。
薄暗い屋敷の中でその絵画だけは、窓から射し込むわずかな雷光で時々その姿を露にする。

「普通は屋敷の主人が描かれている物だけど」

 オレコが言った。
じゃあ、コイツがこの屋敷の主人か。
見た目は人間だな。

 貴族が着るような上等な上着に、ケープを纏っている。
顎髭はもみ上げと繋がり、毛髪は毛量が多く赤毛だった。
眉も太く力強い。
深く落ち窪んだ眼窩に、ギョロリとした眼が正面を見据えていた。

 高く、大きな鼻筋。
薄く、大きな唇。
赤黒い皮膚も異様な雰囲気を醸している。

「迫力のある主人だな」

 カルタスが感想を述べた。
確かに。

「……ぷっ……はっはっはっはっ」

 突然ガイが吹き出した。

「いや、悪い。あまりに見たまんまの感想だったからついな。そりゃそうだろうと思っただけだ」

 まあ、確かに見たまんまの感想ではある。
これが普段、屋敷の主人に招かれて訪れた場合なら、そんな感想もあるかもしれないが。

「……まあ、マンモンだからね」

 ディーレが笑いを堪えるように静かに言った。
わずかに肩が震えているのは気のせいか。

 まさかこんな所で自分の風貌を笑われているとは、さすがのマンモンも予想しなかっただろうな。

「ね、ねえ、あの顔……今こっちを見たよ」

 ルガが驚いたように言った。

「正面を向いた人物画は、大抵そう見えるんだよ」

 ガイが言う。

「違うよ。本当に目玉が動いたの」

「気のせいだっての」

 本当にそうか。
この屋敷の中で起こる事は、全て疑った方が良い。
俺は肖像画に近付いた。

 特に変わった所は無いが。

 ガタガタガタッ

 周りで調度品が鳴り出した。

「なんだ?」

 バルバが辺りを警戒する。

 各部屋の入り口に置かれた小さなテーブルや椅子が、ガタガタと動いている。
地震では無い。

「おい、家具が動いているぞ」

「へっ、悪魔の屋敷なんだろ。テーブルぐらい動くだろうよ。ビビるな」

 ガイがバルバを叱咤する。

 ひゅっ

 椅子が宙に浮き上がり、突然飛んできた。

 ガシッ!

 俺はそれを片手で受け止める。

 だんっ

 それを床に勢い良く押し付けると、ぎっちりと腰を下ろす。
押さえられた椅子は少しも動けず、カタリとも言わなくなった。

「……まさか椅子のしつけまで出来るとは思わなかったぜ」

 カルタスが俺を見て感心したように言う。

 ひゅっ

 だが、それ以外の調度品は騒がしく動き回る。

「ポルターガイストってヤツかしら」

 オレコが周りを見渡して壁際に寄った。
全方位を敵に晒すよりは良い対処法だ。
みんなが壁際に寄る一方で、俺は通路の真ん中に座り込むとじっと肖像画を見据えた。
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