見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六三一

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 その何者かは礼服に身を包んでいた。
例に漏れずその礼服もボロボロだ。
破れて擦り減って穴が開き、血の染みで白かったであろうシャツは赤黒くなっている。

「あはははははははは!」

 馬鹿笑いする男の両目は、くりぬかれたのか眼球が無かった。
何がそんなに面白いのかは理解できないが。

 見えない筈の男は両手に巨大な鉈を握っている。
なるほど、コイツが惨劇の張本人か。
格好からすると新郎に見えるが、そんな設定などどうでも良い。

 マンモンまで一直線に進む。
その過程は全てぶっ飛ばす。
難しい事は考えてはならない。
どうせ理解し難い状況がこの先も続くのだ。
考えては負けだ。

「きゃああああああ!」

 ルガとディーレは列の後ろへと下がった。
まあ、その方が好都合だ。

「バルバ、ガイ。女を守れ。カルタスとオレコは後方を警戒しろ」

「判ったわ」

 そう言ってオレコが短剣を抜いた。
さすがだな。
この雑然とした屋敷の中では、電磁ムチよりも短剣の方が有利だ。
オレコはそれをちゃんと理解している。

 カルタスもカルタスソードは背負ったままだった。
両拳をガシガシと打ち合わせて臨戦態勢を取っている。
素手で行く気か。
やはりカルタスも同様に判っているな。

「ルガ、ディーレ!こっちだ。後ろに着け」

 ガイが、ルガとディーレを庇うように前に付いた。

「わははははは!あはははははははは!」

 男が両手の鉈を力任せに振り回す。
雑だが迷いが無い分、速くて隙が無かった。

「むん!」

 だがそれだけでは俺の敵では無い。
男の鉈を腕で受け止めると、俺はそのまま蹴飛ばした。

 ズダダダダーン! 

 蹴られて男は吹っ飛んだ。
壁に当たって跳ね返ると床に転がる。

「改造人間にそんな物が通用するか」

 たぶんマンモンもどこかで見ている筈だ。
俺は力を見せつけた。
小細工は無駄だ、早く出て来い。

「あは、あはははははははは……うはははは!」

 男は懲りずに立ち上がる。

「お前が今まで殺してきた人間とは違うと言うのが判らんか。判らんだろうな。目ん玉無いしな」

 容赦なく男をぶちのめす。
コイツはおそらく、この棟のルームガーダーだろう。
俺は男の首をガッチリ掴まえると持ち上げた。

「あは、あは、あははは!」

 男は笑っていたが足は地面に着いていない。
そのまま走って壁をぶち破る。

 ベキベキベキガシャーン!

 木と土塀をぶち抜いて外へと飛び出す。
雨はいつの間にか土砂降りへと変わっていた。
雷鳴が轟く中、俺は男を遠くへと放り投げた。

「うわはははははははは!」

「おっと、任せてもらおうか」

 側からカルタスが前へと滑り出る。

「これでも食らえ!」

 カルタスがカルタスソードを抜き出すと、狙いを定めて砲撃をぶっ放した。

「わは……ッ!」

 ドオオーン!

 空中で砲撃が命中して、男は雨の中に散華した。

「うるせえよ。静かにしてな」

 カルタスはそう言って爆発を見届けた。

「ずいぶんと飛ばしてるな」

 振り向いてカルタスが言った。

「マンモンてのが控えてるからな。負けたらオオムカデンダルにどやされる」

「……マンモンか。相手が相手だもんなあ。負けたら黙ってれば?」

 カルタスが冗談ぽく言う。

「無駄だ。もう聴いてるからな」

「え!?」

「お前の言葉も聴かれてるぞ」

 カルタスはバツが悪そうに口笛を吹いて誤魔化した。
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