見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六二九

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「怯むな。どんどん行け」

 オオムカデンダルが言う。
俺は警戒しながら躊躇無く前へと進んだ。
廊下の左右には部屋があり、その全ての部屋から気配がする。

「そこかしこに何か居るぞ」

 カルタスが部屋の扉を見ながら言った。

「放っておけ。どうせ雑魚だ」

 俺は構わず進む。

「無視して良いの?」

 ルガが不安そうに言う。

「無視して良い」

 俺は振り向きもせずにそう言って、どんどんと歩いた。
コイツらそんなバトルスーツを身に付けていながら、怖いのか?

「だってマンモンだよ?悪魔だよ?悪魔って殴れるのかな……」

 ルガが声を震わせながら言った。
どうやら本当に怖いらしい。

「いきなり呪われたりしたらどうしよう……」

 もはや半ベソになっている。
よくそれでオオムカデンダルに挑んだもんだ。

「殴れるヤツは怖くないもん」

 お前たちは誤解している。
俺は悪魔や幽霊なんかよりも、オオムカデンダルの方が怖いんだが。

「開けてぇぇ……」

「ここを開けてぇぇ……」

「誰かあぁぁ……」

 扉の向こうから様々な声がする。
怖がらせているのか、誘っているのか。
どちらにせよ構う意味は無い。
俺は無視して先へと進む。

 やがて廊下の突き当たりに来た。
足元にはさっき蹴飛ばした頭が転がっている。

「痛ぇ……痛いぃ……」

 まだしゃべれるのか。
俺は一瞥すると、その頭を踏み潰した。

 ぐしゃっ!

「ひぃ!」

 ルガがディーレにしがみつく。

「……なかなかエグいな」

 ガイが言った。

「こんなものはまやかしだ。たいした攻撃力も持っていない。いちいちビビるな」

「な……俺はビビって無い!」

 ガイは声を荒らげたが、俺は構わず扉を開く。
次の部屋へと足を踏み入れる。

「……」

 床や壁に血飛沫の後がシミとなって残っている。
悪趣味もここまで来るとアートだな。
バラバラになった人骨も、さっきから辺りに散らばっているが、かなり時間が経っている所からすると、ずいぶん昔からこの屋敷はあったのだろう。

 そして知ってか知らずか時々人が入り込み、この屋敷の餌食になっているのだろう。
誰も居ないが何者かがうごめく気配は、どんどんと強くなってくる。

「何なんだよこの屋敷は。何の為にこんな物を建てる意味があるんだ?」

 ガイが気味悪そうに部屋の中を見回して言った。

「恐らくそこはもう、マンモンの腹の中じゃ。簡単に言えば屋敷に食われたんじゃろうな」

 サルバスの声が聞こえる。
全員で観戦中か。
俺はため息を吐いた。

「なあに。ニーズヘッグの腹の中に比べりゃ、たいした事無いだろ?」

 オオムカデンダルが鼻で笑う。
簡単に言ってくれるなよ。

 どうやらこの部屋は台所へと繋がるようだ。
俺は次の部屋へと扉を開く。

「ねえ……さっきからたくさんの話し声が聞こえるんだけど」

 ディーレが訴えた。
確かに気配の原因はこの話し声だ。
誰も居ないのに聞き取れないような声でザワザワと何かしら言っている。

「……恨み言かしら」

「そうかもな」

 俺はディーレの言葉に返事を返した。

「きゃああああああ!」

 俺が扉を開けた瞬間、女の絶叫が聞こえて来た。
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