見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六〇七

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 そしてオオムカデンダルの予想通り、翌日には九条晃たちの知るところとなった。
城の中で話題になったのだろう。
ケーキの到着と同時にガイたちがやって来た。

「おいお前ら!それを食べるんじゃない!危険だ!」

 ガイが民衆に向かって叫ぶ。
人々は何事かとガイたちを見た。

「これは食べてはいけない!奴らは秘密結社ネオジョルト!みんなその名は知っている筈だ!これは何かの罠なんだ、我々帝国を滅ぼす為の策なんだぞ!」

 ルガが必死に民衆を説得する。
ソル皇子はそれを冷静に横目で眺め、オオムカデンダルはその横でニヤニヤしながら黙っていた。

 フィエステリアームはそれら全てを完全に無視して、人々にケーキと珈琲をせっせと配った。
家から手に手に容器を持って列をなす人々は、それに珈琲を分けてもらおうとずっと並んでいた。

「おい!受けとるな!」

 バルバが列に並ぶ老婆の腕を掴んだ。

「い、痛いよ。離しておくれ」

 老婆が小さく叫ぶ。

「いかんなあ。実にいかん。老人は優しく労ってやれよ」

 オオムカデンダルが大声でバルバに言った。
その瞬間に人々はバルバを見た。
その目は、暗黙の非難の眼差しだった。

「違う!みんな騙されているんだ!目を覚ませ!」

「騙されているかどうかはともかく、別に毒や薬の類いは入っていない。目を覚ませは言い掛かりだな」

 オオムカデンダルが、ふんと鼻を鳴らした。

「だいたい俺たちは旨いものを分けてやると言っているだけだ。何も要求していないぞ。さっきも言ったがおかしな薬も入っていない。それの何が気に食わんのだ。旨いものを民衆に分け与えたら帝国は滅びるのか?」

 オオムカデンダルの言葉にバルバが歯軋りをする。

「みんな!アンタたちが旨いものを食うと、帝国が滅ぶんだそうだ。帝国の為に一生不味いものでも食ってろってよ」

 オオムカデンダルは皮肉たっぷりに吹聴する。
だが、民衆には皮肉には聞こえない。
表には出さないが、明らかにバルバたちに対して敵対心が感じられる。

 恐ろしいな。
普段は搾取する対象としか見ていない存在に、実はそっぽを向かれると国など成り立たない事をこれほど目に見える形で示されるとは。

「ち、違う!俺はそんな事は言って……」

 もう遅い。
一人一人は小さな存在でも、国民全体となれば話は変わってくる。
ここに居るのは国民の全てでは無いが、全ての国民の代弁とも言える反応だった。

 不満なのだ。

 民衆は不満を持っている。
それはすなわち、帝国が完璧な国家などでは無いと言う証拠だった。
完璧な国家など、どこにも存在しないかもしれない。
だが、それでも為政者はより良い国家を目指すべきなのだ。

 これは、帝国に対する大きな課題を国民が突き付けた瞬間だった。
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