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六〇二
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「万が一とな?」
「はい。陛下もご存知かと思いますが、例のネオジョルトなる盗賊紛いの者共です」
「……それがケーキの元と言うのか?」
皇帝は訝しげに九条晃とソル皇子を見比べた。
「まだそこまでは断言できませんが、可能性は無くはありません。食べてはならないとまでは申し上げませんが、ハッキリするまではお控え下さい」
九条晃の言葉に、ユピテル皇子も口を揃える。
「その通りです。この晃はネオジョルト討伐軍の隊長でもあります。陛下、私と晃の陛下と帝国を心配するこの気持ちを、どうか汲み取っては頂けませぬか」
そう言われれば父親として無下には出来まい。
状況は益々苦しくなった。
「ソルよ」
ユピテル皇子がソル皇子に尋ねる。
「そのケーキとこーひーなる物の出所さえ明かせば疑惑は晴れるのだ。問題無ければ陛下も心置無く好物を食せると言うもの。どうだ、出所を明かしてみよ」
俺にはどうする事も出来ない。
九条晃に察知されれば、たちどころに透明化は意味を失ってしまう。
一対一でも厳しいのに、敵のど真ん中で戦闘になるのは絶対に避けなければ。
ソル皇子は少しも表情を崩さず、取り乱さず、平然とたたずんでいた。
「どうしたソルよ。答えられぬか?」
ユピテル皇子がソル皇子に迫る。
九条晃は皇帝に語り始めた。
「私は食べた事があります。とても美味しい事も知っています。ですが、あれをこの世の中で作るには相当な難易度を要します。いや、ハッキリ言えば不可能なのです」
「……だが、実際に毎日食しておるぞ。余だけではない。この城の全ての人間がだ。全ては幻か幻術の類いだ等とでも言うつもりか?」
「いえ、そうではありません。その不可能な物を作る技術を持つ者こそ『ネオジョルト』だと申し上げているのです」
「ふん、ネオジョルトとは菓子屋か何かか。それを恐れるとは晃よ、そちも随分と臆病よの」
皇帝が不満を皮肉に変えて、九条晃を揶揄した。
「陛下。この世の『誰も作れない物を作る』、そう言う力を持っている、それが危険だと申し上げております」
「もう良い。下がれ」
皇帝は明らかに機嫌を損ねた。
よし、危なかったが首の皮一枚残った。
余計な反論をせず、落ち着いて過ごしたソル皇子はやはり見事だ。
「陛下!今一度お考え直しを!」
「くどい!」
皇帝はユピテル皇子の言葉を退けた。
「ソル皇子。どうしても出所を明かしては頂けないのですか?」
九条晃が突然標的をソル皇子に変えた。
「そう言う約束じゃ。約束を違えるのは余は好かぬ」
「そうですか……所で、先程から妙な気配を感じませんか?」
「妙な気配?」
ソル皇子が聞き返す。
「我々以外に何者かが潜んでいる。そんな気配です」
何を言い出す気だ。
俺は心臓が飛び出しそうになった。
くそ、心音さえ聞かれてしまいそうで、居ても立っても居られない。
移動すればわずかな足音さえも察知されてしまう。
俺は息を殺して、ただじっと身を潜めた。
「はい。陛下もご存知かと思いますが、例のネオジョルトなる盗賊紛いの者共です」
「……それがケーキの元と言うのか?」
皇帝は訝しげに九条晃とソル皇子を見比べた。
「まだそこまでは断言できませんが、可能性は無くはありません。食べてはならないとまでは申し上げませんが、ハッキリするまではお控え下さい」
九条晃の言葉に、ユピテル皇子も口を揃える。
「その通りです。この晃はネオジョルト討伐軍の隊長でもあります。陛下、私と晃の陛下と帝国を心配するこの気持ちを、どうか汲み取っては頂けませぬか」
そう言われれば父親として無下には出来まい。
状況は益々苦しくなった。
「ソルよ」
ユピテル皇子がソル皇子に尋ねる。
「そのケーキとこーひーなる物の出所さえ明かせば疑惑は晴れるのだ。問題無ければ陛下も心置無く好物を食せると言うもの。どうだ、出所を明かしてみよ」
俺にはどうする事も出来ない。
九条晃に察知されれば、たちどころに透明化は意味を失ってしまう。
一対一でも厳しいのに、敵のど真ん中で戦闘になるのは絶対に避けなければ。
ソル皇子は少しも表情を崩さず、取り乱さず、平然とたたずんでいた。
「どうしたソルよ。答えられぬか?」
ユピテル皇子がソル皇子に迫る。
九条晃は皇帝に語り始めた。
「私は食べた事があります。とても美味しい事も知っています。ですが、あれをこの世の中で作るには相当な難易度を要します。いや、ハッキリ言えば不可能なのです」
「……だが、実際に毎日食しておるぞ。余だけではない。この城の全ての人間がだ。全ては幻か幻術の類いだ等とでも言うつもりか?」
「いえ、そうではありません。その不可能な物を作る技術を持つ者こそ『ネオジョルト』だと申し上げているのです」
「ふん、ネオジョルトとは菓子屋か何かか。それを恐れるとは晃よ、そちも随分と臆病よの」
皇帝が不満を皮肉に変えて、九条晃を揶揄した。
「陛下。この世の『誰も作れない物を作る』、そう言う力を持っている、それが危険だと申し上げております」
「もう良い。下がれ」
皇帝は明らかに機嫌を損ねた。
よし、危なかったが首の皮一枚残った。
余計な反論をせず、落ち着いて過ごしたソル皇子はやはり見事だ。
「陛下!今一度お考え直しを!」
「くどい!」
皇帝はユピテル皇子の言葉を退けた。
「ソル皇子。どうしても出所を明かしては頂けないのですか?」
九条晃が突然標的をソル皇子に変えた。
「そう言う約束じゃ。約束を違えるのは余は好かぬ」
「そうですか……所で、先程から妙な気配を感じませんか?」
「妙な気配?」
ソル皇子が聞き返す。
「我々以外に何者かが潜んでいる。そんな気配です」
何を言い出す気だ。
俺は心臓が飛び出しそうになった。
くそ、心音さえ聞かれてしまいそうで、居ても立っても居られない。
移動すればわずかな足音さえも察知されてしまう。
俺は息を殺して、ただじっと身を潜めた。
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