見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
599 / 826

五九九

しおりを挟む
 通路の途中で様々な人とすれ違う。
これが全員城に出入りしている人間なのだ。
何と言う数の多さか。
そして何と言う広さなのか。

 通路も広く、天井も高い。
それが上の階に行くほど小さく狭くなってくる。
おそらく敵の侵入に対して、大部隊を展開しにくい造りになっているのだな。

 それでもソル皇子の部屋までは、何とか冷蔵庫は通り抜けられそうだ。

「ここじゃ」

 ソル皇子がそう言って扉を開く。
広い。
ただひたすらに広い。
何だこれは、これが個人の部屋か。
死ぬまでにこのスペース全ては使いきれないんじゃないのか。

 天井も再び高い。
部屋の奥には庭がある。
ここは上階なんだぞ。
訳が判らない。

「ふむ。そうさの、この辺に置いてもらおうかの」

 部屋のど真ん中にか。
相変わらず、王侯貴族やら大金持ちの考える事は判らんな。
それともセンスの問題か。

 だがフィエステリアームはそんな事はお構いなしに、言われた所に冷蔵庫を置いた。
異様な光景だな。

 だだっ広い部屋のど真ん中に巨大な冷蔵庫。
まあ、いいか。

「じゃあ僕は帰る。また明日同じ時間に運んで来る」

 フィエステリアームがそう言って背中を向けた。

「判った。気を付けてな」

 そう言ってから、フィエステリアームが気を付けなければならない事など、この世には無いなと思った。

「ところでレオよ。今そこに居るのかえ?」

「はい」

「改めて凄いのう。全く見えん」

「殿下の警護にはうってつけかと」

「ほほほ。確かにな」

「基本的に私は殿下のお側に居るとお思い下さい」

「うむ。あい判った」

 そうして、地味にキツい警護が始まった。
ずっと黙ったまま、殿下の後ろを追って歩く。
しかも無駄に広い。
手荒いに行くのにもこの長い距離を着いて歩くのだ。

 普段、皇族の身の周りに居る、世話係の苦労が良く判る。
これはさすがに一人では務まらない。
この出入りする人間の数にも納得がいった。

 そんなこんなで数日が過ぎる。
毎日ケーキと珈琲が届けられ、それを城の人間に労いとして配った。
初日のうちにほぼ全員がこの味にやられた。
今ではもうすっかり、お茶の時間を楽しみにして、時間が近付くと皇帝から門番までそわそわしだす。

 こんなにも効果てき面か。
フィエステリアームが言うには、甘い物を食べると脳から幸せを感じる成分が分泌されるんだとか。
それは脳内麻薬とも呼ばれるほどに、人間に快感を感じさせるのだそうだ。

 まさか、これもオオムカデンダルの計算の内なのか。
まさかなと思う反面、彼ならやり兼ねないとも思った。

 これだけケーキと珈琲が広まったのだ。
奴らもきっと口にしているだろうが、さて。
しおりを挟む

処理中です...