見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五九五

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 しかし、あんな連中が城に出入りしていて、その城にソル皇子を帰すと言うのもどうなのか。

「構わぬ。別に余は気にせんぞ」

 それはさすがに少しばかり危険なんじゃないか。

「まあ、城の中で堂々と殺るくらいならもう殺っている気もするな」

 オオムカデンダルが言う。
更に続けた。

「だが、まあ大丈夫だろ。その内に手など出なくなる」

 その自信はどこから来るのか。

「毎日大量にケーキと珈琲送ってやるからよ、城の人間にたっぷり食わせてやれ」

 何だそりゃ。

「……餌付けするって事?」

 令子が首をかしげながら言った。

「そういう事。意外と人間と言うのはこういう原始的な方法が有効だからな。しかも三大欲求の一つである食欲に抗うのは難しい。人は旨い物を際限無く求める」

 それはそうかも知れないが。

「城内の人間全てが殿下を狙っている訳ではあるまい。ほとんどの人間は変わらずに殿下に接するだろ。これで餌付けしてやれば余計に殿下の好感度は上がる。誰もが次のケーキと珈琲を楽しみにする筈だ。そんな中で殿下に手出し出来ると思うか?」

 それは……判らん。
そんな簡単な方法で暗殺が止められるとは思わないが。

「良いんだよ。人目に着く所で豪勢に振る舞えば。暗殺と言っても城内で剣を抜く馬鹿はいない。せいぜい毒殺が関の山だ」

 じゃあ毒殺を企てられたらどうするのか。

「俺がそんな対策も立てられないと思うのか?」

 その言い方はズルいぞ。
思うとは言えないだろう。

「……じゃあ何か対策があるのか?」

 俺はおずおずと尋ねた。

「当たり前だろ。この世界の文化水準から言えば毒を盛るなら、かなりの確率で青酸カリだ。最初からこの珈琲とケーキには、青酸カリを主な対象として、強い解毒成分が含まれている。誰かが毒を盛っても効果はほぼ無い」

 ケーキと珈琲以外に毒を盛られたらどうするんだ。

「一回ケーキと珈琲をセットで食べると三十時間は効果がある。殿下はもっと食べるだろうが、だとすれば余計に安心だ。問題など無い」

 大丈夫なのかそんな劇薬ぽい物。

「天然の成分から蜻蛉洲が作った解毒薬だ。副作用などある訳無いだろ」

 蜻蛉洲の名前が出ると信頼感が違うな。
何と言うか、謎の信頼感がある。
俺は何となく安心した。

「……何かムカつくなお前」

 オオムカデンダルがボソッと言った。
俺は気付かないふりをする。

「それとレオ。お前、今日から城へ入れ」

 は?

「まて、それはいったいどう言う意味だ」

「判らんか?城で寝泊まりをしろと言っている」

 いや、それは判る。
俺が言っているのは何故、秘密結社の怪人が城で寝泊まりをしなければならんのか、と言う事だ。

「鈍いなお前は」

 悪かったな。
判るように言ってくれれば良いだけだと思うが。

「余の警護だな?」

「その通り。さすがは殿下。話が早くて助かるぜ」

 ちぇっ。

「だからと言って、そんな簡単に城に入れる訳無いだろ」

 俺は反論を試みる。

「相手は化け物連れ込んでるんだぞ?別に改造人間が入ったって良かろう」

 そう言う問題なのか。

「構わぬ。余が認めれば文句は出まい」

 本気か。

「じゃあ準備が出来たらレオに土産も持たせる。ふつつか者だが宜しく頼むよ」

「ほっほっほっ。あい判った」
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