見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五九二

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 ベクターシードと名乗った九条晃の姿は、四人とは違う物だった。
パッと見に違うのは、デザインだ。
装甲が多く、装飾は少ない。
その代わりに機能美とでも言うべきか、無駄を排除して実用性を追求した結果の美しさがあった。

 四人と違い、足も、腹も、腰回りも、背部にまで装甲が及んでいる。
それでいてスリムだった。
動きにくそうな印象は全く無い。
その一方で。

 全身に破壊された跡が目立つ。
細かな傷や欠けた部分があり、ヒビが入っている部分もある。
どうすればこんな姿になるんだ。
あまりにも激しい戦いの跡を想像させた。

 これは、俺の知っている物とは全くの別物だ。
俺は直感的にそう感じた。

「観察は済んだか?なら、そろそろ行くぞ」

 ベクターシードが動き出す。
俺はハッとして、構えをとった。

「とああっ!」

 掛け声と共にパンチが放たれる。
俺はそれを軽く受け止める。

 がしぃっ!

「くっ!?」

 何だ。
とてつもなくパンチが重い。
見た目は普通のパンチなのに、受けた手がはね飛ばされそうだ。

 受けるよりかわした方が良いな。
俺は方針を変えた。

「ふっ!」

 短く息を吐きながら、ベクターシードは上段蹴りを放った。
身を低くして俺はこれをくぐった。

 反撃してみる。
低い体勢から軸足を取りに行く。

 たんっ

 それを察知してベクターシードはジャンプした。
そのまま俺を飛び越えて背後に着地する。

 身軽だな。
判断も早い。
これはレベルが高いな。

「サフィリナックスサンダー!」

 俺は振り返り、サフィリナックスサンダーを放った。

「ちっ!」

 ベクターシードが転がりながら爆発を避けた。
少し近すぎたか。
だが、これはチャンスだ。
地面を転がるベクターシードは体勢を崩している。

 俺は猛然と襲い掛かった。

「はっ!」

 ベクターシードの顔面めがけて蹴りあげる。
しかし、ベクターシードはそれをとっさにガードした。
そのまま吹き飛んで、立ったまま着地する。
くそ、戦い馴れているな。

「……ふ、なかなかやるな。だが今なら勝てない相手じゃない。悪いが今殺させてもらう」

 ベクターシードが低い声で言った。
背筋に冷たい物が走る。
本気だ。

 一気にピンチとなったな。
復帰戦からいきなり全力を出さなければならないとは。

 消えるか。
俺は透明になって視界から逃れる事にした。

「ふん。光学迷彩か。それでは俺からは逃れられんぞ」

 なに!?

「はあっ!」

 どかっ! 

 ベクターシードのキックが、正確に俺を蹴った。
コイツ、見えているのか。

「この世界なら驚異的な能力だな。だが、俺には丸見えだ」

 ちっ、何なんだ。
何故、判るんだ。

 俺はハッとレーダーの存在を思い浮かべた。
レーダーか。
コイツにも備わっているのか。
やはり、ネオジョルトと同質の力を持っていやがる。

「諦めろ、お前では俺には勝てん」

 ベクターシードはそう言うと、構えをとった。
嫌な予感がする。
俺は慌てて体勢を立て直した。

「くらえ!ジョルトバスター!」

 ベクターシードが高くジャンプする。
戦い馴れているクセに、今さら大ジャンプだと。
空中で的になる事に気付かない筈は無い。
コイツ、俺を甘く見たのか。

 迎え撃ってやる。
俺はカウンターの準備に入った。
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