見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五七四

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「おい……ソル殿下だぞ」

 カルタスが小声で呟く。
オレコも驚いて固まっていた。
無理もない。
こんなスペシャルゲストと楽しくおしゃべりしようだなんてのは、オオムカデンダルくらいだ。

「……俺は連れてくるなと言った筈だが?」

 蜻蛉洲が俺を睨み付ける。
恐ろしい。

「はっはっはっ。まあ、そう言うな。お前より俺の方が人望あるからな。な、レオ」

 オオムカデンダルが嬉しそうに蜻蛉洲の背中を叩いた。
俺にこれ以上どうせよと言うのか。
仕方無く俺は黙って立っていた。
こう言う時は空気に徹するのが一番だ。
俺がここに来て学んだ最大の特技だ。

「あらためてお招きに預かり光栄だ。帝国第二皇子、ソル・グランと申す」

 ソル皇子は自ら名乗って一礼をした。
秘密結社の幹部にそこまでせんでもと思うが、皇子の律儀さは身分を選ばない。
それは、今までの皇子の振る舞いを見ていれば判る。

「ふふ、俺はネオジョルトの幹部が一人。オオムカデンダルだ。それと向こうは、愉快な仲間たちだ」

 オオムカデンダルはそう言って蜻蛉洲以下三人を紹介した。

「誰が愉快な仲間たちだ!」

 遂に蜻蛉洲の堪忍袋の緒が切れた。
いや、感情の堤防が決壊した。

「貴様!いい加減にしろよ!いったい何がしたいんだ!」

 蜻蛉洲の激昂も当然だ。
俺は相変わらず空気に徹する。

「言っただろ?おしゃべりするだけさ。な、皇子?」

 オオムカデンダルは悪びれもせずそう言って、ソル皇子に同意を求めた。

「うむ。余も茶の一杯くらいはご馳走になろうと思うてな。何と言っても、もう知らぬ仲でもあるまい」

「そうそう。了見が狭いぞトンボ」

「誰がトンボだ」

「して、貴殿の名前をまだ聞いておらぬが、名乗ってはくれまいか?」

 ソル皇子はマイペースで蜻蛉洲に名前を尋ねた。
物怖じしないなこの皇子は。
怖くないのか。
それとも、ただの世間知らずか。

「誰が名乗るかっ!」

「おいおい蜻蛉洲。それは無いんじゃないの?皇族だよ?皇子さまだよ?頭が高いんじゃないのー?」

 オオムカデンダルが横槍を入れる。

「貴様は判ってるのか!その帝国を今獲ろうとしているんだぞ!何故その国の皇子と仲良く茶なんぞ飲まなければならんのだ!」

「これだから風流を解しない奴はガサツで嫌なんだよねー」

 アンタの口から風流を語るか。

「貴様だけには言われたくない」

 そりゃそうだ。

「茶道知らんのか?茶室に入ったら敵も味方も無いんだよ。帯刀も許されん」

「……貴様、つまらん事を知っているな」

 蜻蛉洲は眉間をピクピクさせながらオオムカデンダルを睨み付ける。

「百足くん。あんまり蜻蛉洲くんに意地悪を言っては駄目よ」

 令子が茶をすすりながら、やんわりとオオムカデンダルをいさめた。
令子の態度を見るに、彼女は別に怒ってはいないように見える。
それともいつもの事と諦めているだけか。
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