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五七三
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「殿下。警護の方々は良いのですか?」
俺は出発前にソル皇子に尋ねた。
「なんじゃ。気付いておったのか。さすがだの」
辺りには二十人ばかりの人間が一般人を装って、そこかしこに紛れている。
これだけ判るのに銀猫の気配には気付かなかったのだ。
ここは銀猫を称えるべきだろう。
「構わぬ」
「我々が誘拐したのだと思われては困りますが」
余計な心配だったかもしれないが、どんな些細な事で問題に発展するか判らない。
蜻蛉洲の心労を減らす為にも、細かい事には気を配っておいた方が良い。
「ふむ。ならば」
ソル皇子は振り返って右手を上げた。
同時に警護とおぼしき連中が警戒を解いた。
「これで良かろ」
アンタは良いかもしれんが、警護の連中は気が気では無いだろうな。
要らんと言われても、そう言う訳にはいかないのが護衛だ。
「問題ない。それより早ようせんか」
ソル皇子に急かされて、俺は仕方無くフライングカーペットを滑らせた。
「おお!これは快適だ!」
ソル皇子は子供のように喜んで手を叩いた。
この大きさなら転落の心配も無いだろう。
俺はため息をついて、そのまま拠点へと向かった。
「む、思ったよりも寒いな」
ソル皇子が呟く。
この速度なら寒いかもしれない。
地面から離れるほど温度も下がるが、耐えられないほどでも無い。
ミスリル銀山に入ってからの方が寒かろう。
ま、俺には関係無いが。
そんな事を考えているうちに、俺たちは拠点へと到着した。
出発したばかりだと言うのに、もう帰ってくる羽目になるとは。
俺はモンスターが入れない場所にフライングカーペットを着けると、ソル皇子を下ろした。
「ほほう。これが噂のミスリル銀山のアジトかえ」
目を輝かせてソル皇子は、辺りをキョロキョロと見渡した。
遠足か。
「こちらです」
俺は皇子を通路へと案内した。
広間に向かうべきだろうが、きっと蜻蛉洲も居る筈だ。
あんまり会いたくない。
俺は足取りも重く通路を歩く。
着かないで欲しいと願いながらも、あっという間に広間へと辿り着いた。
いつもは広大に感じる屋敷も、今日ほど狭く感じた事は無い。
ドアを開ける。
部屋にはオオムカデンダル以下、蜻蛉洲、令子、フィエステリアーム、サルバス……なんだ、全員居るのか。
俺は無表情のまま部屋に足を踏み入れた。
「殿下はどうした?」
オオムカデンダルが嬉しそうに問い掛けた。
「こちらに」
俺は体をドアの脇に移すと、ソル皇子を部屋の中へと招き入れた。
「おお、久しぶりしゃの。オオムカデンダル」
「へへっ、良く来たな……いや、おいで下さいました、かな」
「良い良い。お主は余の部下でも帝国の臣民でも無い。余計な気は使わんで良い」
皇族とは思えないざっくばらんさだが、育ちの良さは隠せんな。
俺はオオムカデンダルとソル皇子を比べて内心そう思った。
ただ、蜻蛉洲の鋭い視線が痛い。
俺は出発前にソル皇子に尋ねた。
「なんじゃ。気付いておったのか。さすがだの」
辺りには二十人ばかりの人間が一般人を装って、そこかしこに紛れている。
これだけ判るのに銀猫の気配には気付かなかったのだ。
ここは銀猫を称えるべきだろう。
「構わぬ」
「我々が誘拐したのだと思われては困りますが」
余計な心配だったかもしれないが、どんな些細な事で問題に発展するか判らない。
蜻蛉洲の心労を減らす為にも、細かい事には気を配っておいた方が良い。
「ふむ。ならば」
ソル皇子は振り返って右手を上げた。
同時に警護とおぼしき連中が警戒を解いた。
「これで良かろ」
アンタは良いかもしれんが、警護の連中は気が気では無いだろうな。
要らんと言われても、そう言う訳にはいかないのが護衛だ。
「問題ない。それより早ようせんか」
ソル皇子に急かされて、俺は仕方無くフライングカーペットを滑らせた。
「おお!これは快適だ!」
ソル皇子は子供のように喜んで手を叩いた。
この大きさなら転落の心配も無いだろう。
俺はため息をついて、そのまま拠点へと向かった。
「む、思ったよりも寒いな」
ソル皇子が呟く。
この速度なら寒いかもしれない。
地面から離れるほど温度も下がるが、耐えられないほどでも無い。
ミスリル銀山に入ってからの方が寒かろう。
ま、俺には関係無いが。
そんな事を考えているうちに、俺たちは拠点へと到着した。
出発したばかりだと言うのに、もう帰ってくる羽目になるとは。
俺はモンスターが入れない場所にフライングカーペットを着けると、ソル皇子を下ろした。
「ほほう。これが噂のミスリル銀山のアジトかえ」
目を輝かせてソル皇子は、辺りをキョロキョロと見渡した。
遠足か。
「こちらです」
俺は皇子を通路へと案内した。
広間に向かうべきだろうが、きっと蜻蛉洲も居る筈だ。
あんまり会いたくない。
俺は足取りも重く通路を歩く。
着かないで欲しいと願いながらも、あっという間に広間へと辿り着いた。
いつもは広大に感じる屋敷も、今日ほど狭く感じた事は無い。
ドアを開ける。
部屋にはオオムカデンダル以下、蜻蛉洲、令子、フィエステリアーム、サルバス……なんだ、全員居るのか。
俺は無表情のまま部屋に足を踏み入れた。
「殿下はどうした?」
オオムカデンダルが嬉しそうに問い掛けた。
「こちらに」
俺は体をドアの脇に移すと、ソル皇子を部屋の中へと招き入れた。
「おお、久しぶりしゃの。オオムカデンダル」
「へへっ、良く来たな……いや、おいで下さいました、かな」
「良い良い。お主は余の部下でも帝国の臣民でも無い。余計な気は使わんで良い」
皇族とは思えないざっくばらんさだが、育ちの良さは隠せんな。
俺はオオムカデンダルとソル皇子を比べて内心そう思った。
ただ、蜻蛉洲の鋭い視線が痛い。
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