見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五三二

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 月明かりに照らされて、暗闇の中に荒れ果てた大地がむき出しになっているのが見える。
遠くに目をやると、城が半壊しているのも見えた。

 被害は甚大だ。
俺はセンチピーダーの手の中でそう思った。
だが、意識は辛うじて失わずにいるものの、体はもう全く動かない。
これは当分動けないな。
俺は覚悟した。

 ドコオッ!

 大地を揺るがしセンチピーダーが着地した。
ニーズヘッグはもう動いていない。
絶命したのか?
だとしたら蜻蛉洲の作った猛毒は、龍殺しの力を持つことになる。
オオムカデンダルでさえも危険だと言う猛毒。
こんな物、体内に持ってて俺は大丈夫なのか。

「自分の毒で死ぬ蛇はいない」

 オオムカデンダルはそう言って笑った。
そりゃ、そうか。

 遠くからドヤドヤと音を発てて正規軍が進軍してくるのが見える。
今頃到着か。
まあ、良いが。

「……!これは!?」

 ルドム将軍がニーズヘッグを見て息を飲む。

「ああ、もう死んでるぞ。安心しろ」

 オオムカデンダルが言う。

「な、馬鹿な!貴様が倒したと言うのか」

「いや。うちの有能な行動隊長が倒したんだ」

 その有能な行動隊長は、センチピーダーに握られてグッタリしている。

 ざっと見て千人程か。
あれだけ兵士を失って、尚これだけ短期間で軍を再編できるのか。
帝国軍の底知れぬ軍事力に俺は驚いた。

「……この化け物は、我々が頂く」

 ルドムが言う。

「なに?」

「これは我々帝国に弓引いた化け物だ。然るべき手続きに則って法で裁かれる」

 本気で言っている。
もう死んでいるんだぞ。
しかも化け物に法を適用するのか。

「なるほどね……だが、駄目だね」

 オオムカデンダルがあっけらかんと言い放った。

「なんだと?」

「断ると言ったんだ。だいたい倒したのはこっちだ。この化け物にもまだ用がある。コイツを欲しがってるのがうちにも居るんでね」

「貴様……!帝国に反抗する気か!」

「そうだけど?」

 兵士たちがざわつく。
当然だ。
何の迷いも無く、即答で拒否している。

「貴様、そのおかしなゴーレムから降りて来い!」

「嫌だね。面倒くさい」

 オオムカデンダルがからかうようにルドムに言う。
いや、実際からかってはいるのだろうが。

「お、おい!あれを見ろ!」

 兵士たちが何かを見つけてざわつき始める。
俺は兵士たちの視線を追って、何とか首を持ち上げた。
なんだありゃ。

 ニーズヘッグの死体の上に、人影が見える。
結構な高さの筈だが、いったいいつの間に。

「おい!貴様、何をしている!」

 ルドムが声を荒らげた。

「これは貴様たちのどちらにもやらん。我々の物だからな」

 若い女の声だ。
ローブをまとい、フードを被っている。
顔は見えない。
誰なんだ。
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