見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五〇八

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 更に色濃く、恐怖の霧がバーデンから放たれる。
なんと言う光景か。
まさに地獄だ。
兵士たちはみな一様にもがき苦しんだ。
口々に助けを求める言葉を吐き出す。

「だ、だれかあっ!助けてくれぇ!」

「ひいぃぃ!い、いやだあっ!うわああっ!」

「お、おかあさぁん!怖い!怖いよお!」

 屈強な男たちが泣き叫ぶ姿は、哀れと言うよりも、恐ろしかった。
しかし、それでもオオムカデンダルは微動だにしない。

「……本当にどうなっている。心が無いのか貴様は」

 バーデンが眉間にシワをよせた。

「……理由はいくつかあるな。まず、俺たちはお前が想像出来ないような死線をくぐり抜けて来ている。この程度の恐怖は何度も味わった。だが、人はそれを乗り越える度に強くなるのだ。恐怖に際限は無いが、人の心の強さにも際限は無い。一生恐怖との競争が続くのだ。ボンボンには判るまいが」

「く……っ!」

 バーデンが忌々しげにオオムカデンダルを睨み付ける。
ボンボン扱いが本当に勘に触っているようだ。

「二つ目に、お前は科学者と言う物を知らない。科学者の原動力は純粋な好奇心だ。その純度は高ければ高いほど優秀な科学者となる。そのピュアな好奇心は、時に恐怖とのせめぎ合いにも勝るのだ。判るか?怖いもの見たさで、絶対にやってはならない一線も越えてしまう。科学者とはそう言う人種なんだよ」

「カガクシャ?何を言っているか判らんな」

 バーデンが吐き捨てるように言う。

「難しい事を言ってしまったな。詫びよう。簡単に言えばお前のチンケな宴会芸など、科学者にとってはただの好奇心の対象に過ぎないってこった」  

「なんだと……!」

 バーデンが鼻白む。

「ただの好奇心の対象だと……!」

「この程度のネタで拍手がもらえるとでも思ったか?観客舐めんじゃねえ」

 そう言うとオオムカデンダルは一歩前に歩み出た。

「お前如きにゃ勿体ないが教えてやる。怖いってのはこう言う事だ」

 そう言ってオオムカデンダルは仁王立ちになる。

「変身」

 くるり

 その場で一回転すると、一瞬にしてその姿はオオムカデンダルのそれに変わった。
バーデンが動揺する。

「お前もか……!」

「部下も出来るのだから、その上司も当然出来るさ」

 しかしオオムカデンダルのビジュアルは、俺とは比べ物にならない程のインパクトがある。
ムカデをモチーフにしたと言うその外観は、明らかに嫌悪感をもよおす醜悪なデザインだ。
一目見てムカデ人間だ、と誰もが直感する。
見た目からして既に怖いのだ。

「醜悪なツラだ……」

 バーデンが精一杯の嫌味を言った。

「お褒めにあずかり光栄だ。では、改めて自己紹介しよう」

 オオムカデンダルが胸に手を当てる。

「俺の名は、秘密結社ネオジョルトが幹部。怪人オオムカデンダル」
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