見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四八ニ

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「カルタス様!」

 その後ろから更にトラゴスが現れた。
戦闘があると言うのに付いてきたのか。

「馬鹿お前、来るなと言ったろ!」

 カルタスがトラゴスを叱咤する。

「嫌です!私も一緒に!」

 もはや痴話喧嘩だな。
元が動物だけあって、好いたら片時も離れたくないらしい。
バンパイア戦の時は置いていかれて寂しかったらしく、戻ってからと言うものカルタスから離れようとしない。
前より酷くなっている気がする。

「……」

 バーデンが何も言わずにそれを見ている。
何か考えているのか。
単に呆れているのか。

「よそ見とは余裕だな」

 俺は構わず回し蹴りを繰り出した。
足で首を切り落とす。
だが、バーデンはそれを剣で弾き返した。
やはり隙がない。

「ふむ……やはり狭いな」

 バーデンがアゴを触りながら言った。
それがこちらに有利な点だ。
おかげで、他の兵士はほとんど見ているだけになっている。

ほんの十人程度が散発的に戦闘に加わるが、カルタスとオレコ、それに銀猫によって蹴散らされていた。
それでも三千人は厳しいが、先に将軍をやれれば勝機は十分にある。

「次だ!やれ!」

 バーデンが突然手をあげて叫んだ。
その途端に兵士たちは、勢いよく周りの建物を破壊し始めた。

「なんだと!?」

 俺は驚いた。
周りの建物は民家だ。
ここは西の繁華街に続く大通りで、通りの並びに建っているのはほとんどが民家か、店をやっている民家である。
それを、正規軍が一斉に打ち壊し始めたのだ。

 住民は家にとじ込もって、この騒ぎが通り過ぎるのを震えて待っていた筈だ。
それを、事もあろうに将軍が破壊を命じるのか。
とても信じられない光景だ。

 ガコオッ!
ばらばらばら!
ガアンッガアンッ!

 兵士たちは元々この作戦を命じられていたのだろう。
建物を破壊するための道具を大量に持ち込んでいた。
巨大なハンマーや、鉄製の棒で家屋を次々に破壊した。
住民たちは堪らず逃げ出す。

 泣き叫ぶ女、子供、老人さえも容赦なく追いたてた。

「やめて!止めてください!何をするのですか!」

「うるさい!これは命令だ!極悪人討伐の為に協力しろ!」

 住民の悲鳴や懇願と、兵士たちの怒号が飛び交う。

「……これだ。何が皇帝だ。俺たちはお前らの持ち物じゃないんだぞ!」

 銀猫が怒りに震える声で言った。

「いいや、貴様らは皇帝陛下の持ち物だ」

  すぐさまバーデンが否定した。

「……貴様ああああっ!」

 銀猫が怒りに任せてバーデンに飛びかかる。

「……ふん」

 バーデンはつまらなさそうに銀猫を蹴り返した。

「ぐっ!」

 短い悲鳴をあげて銀猫は地面を転がった。

「くそっ……くそーっ!」

 怒りに雄叫びをあげるが、力量差は明らかだ。

「貴様らは皇帝陛下の所有物だ。身の程をわきまえろ」
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