見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四七六

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「……貴様ごときが理解できんだろうが、教えてやる。街も人もその辺から生えてきた訳ではない。たくさんの敵を討ち滅ぼし、平らげ、領土を治めてきたのは皇族や貴族たちだ。その功績が有るからこそ彼らは特別なのだ。庶民はそこへ住まわせて欲しいと後から集まってきた者たちである。皇帝陛下は貴様たちのような最底辺の者たちにも、同様にこれを許しておられるのだ」

 バーデン将軍は低く、しかし大きな声で銀猫に語った。

「……だから?」

 銀猫がまた言った。

「住まわせてやってる?そりゃあ有り難いね。だったら庶民から税金を取り上げるのを止めたらどうだ?税だけじゃない、色々無理を強いたり、迷惑かけ放題じゃないか。搾り取るだけ搾っておいて、困った時に助けてくれた事なんてあるのかい?ここにはねえ、元々は幸せに暮らしていたのに転落してきた奴らも大勢いるんだよ。アンタらが無理に搾取してきたからさ。この国であんな重税を納められるのは、あそこに住んでる富裕層だけだ」

 そう言って銀猫が指差した。
その先にはマイヤードの邸宅もある、富裕層地区だ。

「住むのは俺たちの勝手だ。自分の人生だからな、勝手に生きていく」

 銀猫はバーデンに対して一歩も退かない。
さすがは姐御だ。
三大組織の一角を率いるだけの事はある。
蜻蛉洲が街を任せるのにわざわざ甦らせたのも頷ける。

「ふん。一寸の虫にも五分の魂と言う事か……」

 バーデンが鼻で笑った。

「だが、税を納めるのも皇帝陛下に尽くすのも帝国臣民の務めである。栄誉ある帝国臣民を名乗る事が出来るのだ、有り難く思え!」

 こっちは、どうやら根っからの帝国軍人のようだな。
話がまったく交わらない。
永遠に平行線だな。

「判らん男だ。勝手にしろと言っている。俺たちも勝手にするだけだ。帰れ!」

「そうはいかん。勝手な独立など認めん。文句があるなら命だけは助けてやる。即刻帝国から出ていくが良い」

 二人とも熱くなってきている。
ここで戦闘が始まるのは、こちらとしては有利だろう。
三千の軍隊を展開するには、街の通りでは狭すぎる。
相手にする人数が限定的になるのは、こちらとしては有利だ。

 それでも三千人を相手にしなければならないのは変わりが無いが。

「俺たちはネオジョルトの傘下に入った。もう独立したのだ。邪魔はさせん!」

 銀猫が腰から大きなナイフを抜いた。
大きいと言っても所詮はナイフだ。
フルプレートアーマーを着込んだ兵士には通用しまい。

「……やれ」

 バーデンが低い声で指示を出した。
同時に近いヤツから銀猫に向かって走って行く。

「来い!」
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