見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四五八

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「今度こそ文句無いな」

 銀猫が確認する。
群衆からは異論は出なかった。
それどころか銀猫を支持する声があがった。
さすがに人望があるな。

「これで帝国内の裏社会は、ほぼ手中に収めたと言っていい」

 蜻蛉洲が言った。
帝国内は、か。
当然王国や、それ以外の場所でも同じようにやっていくつもりなのだろう。
これはその最初の一歩なのだ。

 群衆が急に銀猫の周りに集まりだした。
裏社会の顔だと言われているにしては、たいした人気だ。
新しく建てられた家にも野次馬が集まっている。
そして甦った人たちも、友人や家族に囲まれて喜び合っていた。

 秘密結社の仕事にしては、ハッピー過ぎないか。
まあ、それが悪い事だとは思わないが。
俺はいささか複雑な気持ちでそれを眺めていた。

「静まれいっ!」

 突然、場の雰囲気を無視した声が響き渡る。
俺は声のする方を振り返った。
馬に乗った兵士が十数騎、群衆の後ろに現れた。

「帝国憲兵隊か……」

 俺は舌打ちした。
憲兵隊は兵隊内の取り締まりを主な任務とするが、市内では民間人の取り締まりも行う。
犯罪の捜査や、犯人の捜索なども彼らの任務だ。
このスラムを含めた繁華街は、特に警戒監視の対象地域なのだろう。
憲兵隊の動きが早すぎる。

「ふ、前もって一月後だと宣言しておいたからな。当然来るだろう」

 蜻蛉洲が冷静に言う。
落ち着き払っている場合か。
帝国の正式な軍隊だぞ。
帝国その物とまた事を構えるつもりか。

「何をいまさら。百足がいずれ帝国ともやり合うつもりでいる事はお前も知っているだろう」

 それはそうだが、今か。

「いつやるかの違いしかない。こちらはいつでも準備は出来ている。と言うよりも、準備さえ必要無いがね」

 蜻蛉洲が冷たくニヤリと笑った。
やるつもりなのか、今から帝国と?
さすがに俺は心の準備が出来ていない。
オオムカデンダルにどやされるだろうが、出来ていない物は出来ていないのだ。

 銀猫でさえも頬に冷や汗が伝う。
これはそう言う事態なのだ。

「これはいったい何の騒ぎだ」

 憲兵隊長が低く大きな声で尋ねた。
白々しいな。
知ってて来たんだろうに。

 銀猫も答えられずに黙って憲兵隊長を睨み付けている。
下手な事を言えば、すぐさまお縄になるのは明らかだった。
相手は国なのだから。

「ただの祝いだ。民が親睦を深め合っているだけさ」

 蜻蛉洲が皮肉を込めて答えた。
この場に居るのがオオムカデンダルで無くて良かったと心底思う。

 だが蜻蛉洲もまずい。
彼のプライドの高さと、こう言う手合いを下に見る癖は、場合によってはオオムカデンダルよりも質が悪かった。
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