見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四二九

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 それっきり会話は無くなった。
後には銀猫が、ただ苦しげに顔を歪ませているだけだ。

「どう思う?」

 カルタスが尋ねた。

「……判らん。何を言っているのか、誰と話していたのか」

 俺も考え込んだ。
部屋の中には銀猫しか居なかった。
それは間違いない。

「独り言?」

 オレコが呟く。
独り言だと?
声音も銀猫の物とは違っていたぞ。
明らかに別の誰かだ。

「やっぱり直接聞くしかないな」

 俺はセクトビートルをテーブルから懐へとしまう。

「直接って実力行使か?」

 カルタスが嫌そうに言った。

「場合によってはな」

「女を殴るのは嫌だな」

 カルタスが本当に嫌そうに言った。
顔に似合わず紳士的だな、お前は。

「別にその必要はない。やる時は俺がやる。これは俺の仕事だ」

 もともと俺が命じられた事なのだ。
誰かに加勢させようだなんて思ってもいない。

「とにかく行きましょ。夜になったら、彼女が何処かへ行ってしまうわ」

 オレコの言葉に全員納得した。
日が暮れる前に銀猫を押さえなければ。
俺たちはメタルシェルに乗り込むと、再び帝国へと舞い戻った。

「どこへ降ろす?」

 俺はカルタスに聞いた。

「さっきは確かその先の広場に降りた筈だ」

 カルタスが指を指す。
見ると大通りの突き当たり付近に少し道が広くなっている場所がある。
あれを広場と言うのか。
道じゃないか。

「しょうがないだろ。最初はあそこへ降りてきたんだからよ。俺のせいじゃねえや」

 カルタスが口を尖らせた。
仕方がない。

「管理人、あそこへ降ろしてくれ」

「判りました。少し揺れます」

 管理人はそう言うと、ゆっくりとメタルシェルを広場に降ろした。
俺たちはメタルシェルを降りて外に出た。
何度見てもただの道だ。

「やあ、悪いな騒がせて。すぐどかすからよ」

 カルタスが付近の通行人や野次馬たちに片手をあげて挨拶している。
今さら目立つなもへったくれも無かった。
俺は何も言わなかった。
やがてメタルシェルは再び飛び立つ。
そしてそのまま帰っていった。

「さて、行くか」

 俺は銀猫の店へ歩き出す。
後から二人も付いてくる。
陽はだいぶ傾いてきた。
もう半時ほどで日も暮れるだろう。
自身の影がずいぶん長くなった頃、俺たちは銀猫の店に着いた。
もう既に店先の席は客で埋まっている。
相変わらずの盛況ぶりだ。

 俺たちはそのまま店の中に入ると、ウェイトレスに声をかけた。

「銀猫は居るかい?」

「いえ。でももうすぐいらっしゃると思いますよ」

 だったら少し待たせてもらおう。

「ここで待たせてもらう。銀猫が来たら呼んでくれ」

 俺はウェイトレスにそう言うと、銅貨を十枚ほど渡した。

「判りましたっ!」

 ウェイトレスは笑顔で答えると、そのまま料理を運んでいった。
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