見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三九八

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「その居所が判らねえんじゃ、話にならねえよ」

 カルタスが肩をすくめる。
誰もスラッグ本人を見たことが無い。
存在自体が怪しいと言う。
やはり正体を偽って別人として存在していると言うのが一番納得出来る説か。
これは正体を掴むのは一筋縄ではいかないな。

「そう言えば」

 俺は昼間の事を思い出して、事の顛末を話した。

「……これがそのメモ書きだ」

 俺は懐から、例のメモ書きを取り出した。

「……汚ねえ字だな。読めやしねえ」

 カルタスが眉をひそめる。

「これ、お姉ちゃんの字です……」

 横から覗いていたキロが呟いた。

「なに?お前の姉?」

 俺は思わずオウム返しに尋ねた。

「はい。実は上にもう一人お姉ちゃんが居るんですけど、三年前に家を出たっきり帰ってないんです」

 俺はオレコと顔を見合わせた。

「その姉はどこに居る?」

「カッパー王国です。でも全く音沙汰なしで。王国に給金の良い仕事があるからと言って出たので王国に居るんだとは思うんですけど……」

 これはその姉の筆跡だと言うのか。

「字が汚ないのは昔からで。アタシたち、勉強もしたことありませんし正しい字もあまり判りませんから。でもその中でも字が書けるのはお姉ちゃんだけなんです。だからこの字はよく知っています。これはお姉ちゃんの字です」

 そう言ってキロは屈託なく笑った。
これは、いよいよあのガキどもを早く見つけなければならなくなってきた。
あの男に先を越されたら、どんな目に遭わされるか判ったものではない。

「何と書いてあるか読めるか?」

 俺はキロに尋ねた。

「えーと……庭……八月……それしか読めません。ごめんなさい」

 キロが謝る。
別にキロのせいではないのだ。
謝る必要はない。

「でも、それだけじゃ何の事やら判らないわね……」

 オレコが腕を組んだ。
どうする。
今からでも探しに出るべきか。

「いいえ、ここに居た方が良いわよ」

 オレコが俺を引き留めた。

「昼間の賊、また来るわよ。真っ昼間に来たのはカルタスが居る事を知らなかったからね。敵にとっては予想外だった筈。でも襲撃するなら本来は夜にするのが常識よ」

 嫌な常識だな。
今度は大勢で来るわよ、とオレコが付け加えた。

「やれやれ、またここのオヤジにどやされるな」

 俺は頭を掻いた。

「仕方がない。宿の主人にはもう少し金を掴ませて、今晩はよそに避難するように忠告しよう」

 幸い宿泊客は多くない。
そっちにも事情を説明して金を払う。
どうせオオムカデンダルの払いなのだ、派手に払おう。
大金を掴ませれば嫌な顔をする者は居まい。

「子供たちは引き続きカルタスがガードしろ。俺はオヤジに話してくる。オレコは襲撃に備えて出迎えの準備だ」

「判ったわ。任せて頂戴」
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