見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三九二

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 確かに貯める余裕があるなら餓死者は居ない。
スラムのような場所はどこにでもあるが、毎日どこかで餓死者が出ている。
これは多くの人が知る事実だ。

「そこに金の隠し場所が記してある筈だ。そしてそれを引き出す為の合言葉もな」

「合言葉?誰かが預かってると言うことか?」

「魔導具だ。合言葉が無いと開かない宝箱に隠している。その合言葉も定期的に変えてある念の入れようだ。そのメモ書きには合言葉が記してある筈だ」

 合言葉が必要と言う事は、宝箱の在りか自体は把握済みと言う事か。
見た目の割りに用意周到だな。

「で、お前はその金を頂戴したいと言う事か」

「少し違うな。俺は頼まれただけで、仕事代はもうもらってる」

 コイツ意外とおしゃべりだな。
宝箱の中身の方が高額だとすれば、仕事代をもらうよりも自分が宝箱を奪った方が遥かに金になる筈だ。
だとすれば、考えられるのは中身は金じゃないか、あるいは依頼人が絶対的な力を持っているか。

「誰の依頼だ?」

 途端に男は黙った。
やはり名前は出せないのか。

「……じゃあ中身は本当に金か?」

 俺は質問を変えた。

「……なぜそう思う」

「金ならお前の方が欲しがるだろ。お前のような男がはした金もらって大金を他人に譲る玉かよ」

「……参ったな。アンタ本当に何者なんだ?」

 そう言って男は頭を掻いた。

「それにはもう答えただろ。世界征服を企む秘密結社の行動隊長だ」

「……秘密結社?それはどこまで本気で言ってるんだ?」

「全部だ」

 男は疑いの目で俺をジトっと見つめた。

「……アンタの名前は?」

 俺は本名を言うべきか迷ったが、もう一つの名前の方を口にした。

「サフィリナックスだ」

「サフィリナックス?」

 男が眉をひそめる。
変な名前なのは俺が一番気にしている。
余計な事は言わんでいい。

「まあ、それが本名かどうかは知らねえが覚えておこう」

 男はそう言って俺を見上げた。

「知ってる事は話したぜ。もう行っても良いだろう?」

「ああ」

「やれやれ、手に入れ損なって俺は大目玉だ」

 そう言いながら男は立ち上がった。
ズボンの誇りを軽く払うと、男はばつが悪そうに立ち去って行った。
だが、ここからが本番だ。
俺は変身すると、姿を消す。

「よし」

 俺は自分の手を見て、透明化に成功している事を確認すると男の後を追った。
必ず雇い主の所へ行く筈だ。
そいつが何者か探ってみる価値はある。

 男は細い路地を抜けてスラム地域から離れて行く。
雇い主はこの辺の奴では無いのか。
大通りに近い所まで来ると、大通りと平行して伸びる裏道を真っ直ぐに進んだ。
そうしてやがて富裕層地域へと足を踏み入れる。
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