見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三五六

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「テメエ……本当に何にも知らねえのか?」

 マイヤードが探るように俺の顔を見る。

「疑い深い野郎だな。知らんと言ったら知らん」

「もし本当に何も知らずにここへ来たならよ。オメエうちへ来ねえか、歓迎するぜ」

 マイヤードが俺の顔を覗きこむ。

「断る」

「な、なんだと!?あ、いや……断る理由などねえだろ?金か?だったら月こんだけでどうだ?」

 マイヤードは右手を開いて突き出した。
五?
銅貨五枚ってことは無いだろうが、銀貨五枚ねえ。
月々の稼ぎが銀貨二、三枚ってのは一般的な所帯持ち労働者の稼ぎだ。
俺の待遇は、だいたいその二倍と言っている訳だ。

「ふん。微妙な額提示しやがって。ケチだなお前」

 俺は鼻で笑った。
ちなみに職人は一般的な労働者のだいたい二倍が給料の相場だ。
つまり、それと同じと言っているのだ。

「なんだと!?金貨五枚だぞ!」

 マイヤードが色めき立つ。
グラスに口を着けていた俺は、酒を吹き出した。

「ブッ!金貨五枚だと?」

 宮仕えの上級兵士、高級な役人は、職人の四倍が給料の相場だ。
つまり金貨一枚に銀貨五枚。
それを俺一人に金貨五枚だと?
裏の組織のクセに出しすぎだろ。

 これまでまっとうな冒険者として生きてきたが、犯罪組織と言うのはそんなに儲かるのか。
俺は自分が意外と物を知らない事に愕然とした。

「すまん、俺はてっきり銀貨五枚と言っているのかと思った」

 俺は思わず謝ってしまった。
こんなクズにも謝罪してしまうとは、俺はつくづく善良な男だ。

「お客さんは凄いですねえ!金貨五枚なんて!しかもマイヤード様に迎えてもらえるなんて!」

 少女が目を輝かせて俺を見る。

「ははっ、俺はまだ行くとは言っていない」

 俺がそう言うと、マイヤードが目を丸くした。

「何だって!やっぱりこれでも足りねえってのか!?」

 俺はマイヤードを見た。

「いや、足りないとは言っていない。ただ、どこかに所属するつもりが無いと言うだけだ」

「何故だ!?これだけの厚遇でお前を迎えられる所など、そうは無いぞ!」

 そうだろうな。
どこの組織もこれほど儲かっていたら、まともに働く奴など居なくなる。
帝国全てがチンピラで一杯だ。
だからこそ、どの組織も縄張りや文字通りのシノギを削って、勢力争いをしているのだろう。

「答えは簡単だ。俺が全ての組織を蹴散らして、その頂点になるからだ」

「な、なんだと!?」

 これがサルバスの思惑なのだろう。
街を掃除しつつ、お前が牛耳ってこいと言っていたのだ。
賢者様ともあろうお方が何とも小賢しい。

 まあ、オオムカデンダルに言われれば否も応も無い。
この街のチンピラども全員に宣戦布告する。
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