見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三二四

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 ピーピーピー!

 甲高い音が鳴り響く。
どうやら作業の終わりを告げる合図のようだ。

「さて、これで一応の記憶は頂けた」

 オオムカデンダルはそう言うとレイスの頭から針を引き抜いた。
どうやらあの針で、直接脳から記憶を吸い出したのだろう。
想像するだけで背中に寒気が走った。

「あとはお前の生体サンプルを頂こうか」

 オオムカデンダルは追求の手を緩めない。
クッションの下からレイスの呻き声が、ウーウーと小さく漏れ聞こえた。

「どこでも良いと言えばどこでも良いんだが……」

 そう言いながらオオムカデンダルはレイスの体をまさぐる。

「まるまる一体あるんだから、ここは贅沢に全身から少しずつ頂こうか」

 オオムカデンダルは嬉しそうにそう言うと今度は小さなナイフを取り出した。
あれは確か『メス』と呼んでいた人体を切開したりするのに使う専用の刃物だ。

 オオムカデンダルは鼻歌混じりにレイスの脚から皮膚を削ぎとった。

「ンーッ!ンーッ!ンーッ!」

 クッションの下のレイスが、一層悲鳴をあげる。
だがその声は小さく、残念ながらこの部屋の外まではとても聞こえない。
レイスの助けを求める声は、例えプニーフタールと言えども耳にする事は無いだろう。

 そんな事はよそに、オオムカデンダルは次々と手際よくレイスの体から皮膚を削ぎとった。

「よし、こんなもんかな」

 オオムカデンダルはいくつかのガラスの容器に、部位別にレイスの肉塊を保存した。

「出来れば霊体としてのサンプルも欲しかったんだがな、まあ贅沢は言うまい」

 オオムカデンダルはそんな事を言いながら満足そうにレイスの側を離れた。
レイスはぐったりとしていた。
無理もない。
これほどの目には、例え拷問だとしても中々あう事は無いだろう。

「さて、レオ。残りは蜻蛉洲に回してやれ」

 オオムカデンダルが俺に言った。
レイスの体がビクッと震えた。
そうだ。
まだ終わったわけでは無いのだ。
このあとは蜻蛉洲の番が待っている。
そして、おそらくはオオムカデンダルよりももっと非情な実験が繰り広げられるに違いないのだ。

 さすがに俺も同情を禁じ得なかったが、自業自得だと割り切った。

「……判った。だが妹の情報は」

「心配するな、俺に失敗は無い。ちゃあんとここにレイスの記憶は保存済みだ」

 オオムカデンダルは脇の機械をポンポンと軽く叩いた。

「ただし、あくまでもコイツが知っている以上の事は判らないと言う事は理解しておけよ」

 それは判っている。
その時はまた手掛かりを求めて奴らを追うしかないのだ。
俺は祈るような気持ちでレイスを蜻蛉洲のラボへと運んだ。
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