見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二五六

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 俺はカルタスの顔を見た。
カルタスは勢いよく首を横に振った。
あまりの勢いに首が千切れそうなほどだ。

 まあ、ここまでの感じから言えば、カルタスは本当に何もしてないんだろう。
オレコも長い付き合いらしいから、そんな悪党とは仲良くなんてしていられまい。

 となると、判らないのはこの女だ。
年齢もよく判らない。
カルタスを陥れようとでも言うのか。
色々考え付くが想像の範囲を出るものでは無かった。

「この男が君に何かしたのか?」

そんな事は無いと思うが、 一応どう返答するのか見てみよう。

「この人が私を苦しめるんです……」

 すすり泣きながらそう答えた女は、より一層本格的に泣き出した。
もう、訳が判らん。

「な……ななな、なぜそんな嘘を言うんだ!俺はアンタに初めて会ったんだぞ。何もしてない!」

 カルタスは唾を飛ばして反論した。
たぶん、本当にそうなんだろう。

「と、言っているけど?」

 女はカルタスの顔を一瞬見つめて、またワッと泣き出した。

「あの、もう少し具体的にどう苦しめたのか言ってもらわないと……」

 俺はいつから女性のお悩み相談係になったんだ?

「まさかとは思うけど、君ひょっとして詐欺師なの?」

 俺は困った顔で尋ねた。
確かこう言うの、美人局とか言うんだろう。
まだ何もしてない相手に仕掛けてくるのは聞いたことがないが。

 カルタスの顔を見れば、女に不自由してそうだなと誰でも思う。
いや、証拠はないが。
だが、そこを狙われたとすればどうだ。

「そんな、詐欺師だなんて違いますっ!」

 女が声を荒らげる。
じゃあ何なんだよ。

「昔……何年も前に、約束したんです。でもこの人、ちっとも……」

「おい、アンタが約束破ったらしいぞ」

 カルタスに言う。

「いや!知らんっ!本当に知らんっ!」

 カルタスが首を横に振る。
今度は手も一緒に振っている。
その内、足も振る事になりそうだ。

「何の約束か良かったら教えてくれないか?もしかしたら、ほら、コイツが忘れてるだけかもしれない。思い出せばきっと約束を守ってくれるんじゃないかな」

 俺はなるべく刺激しないように言葉を選んで話しかけた。

「忘れてるの……?」

 女が哀しそうな目でカルタスを見た。
やっぱり泣いてる女は苦手だと思った。
正直に言って、モンスターよりも手強く、恐ろしい。

「いや、忘れてると言うか、覚えがないと言うか……」

 カルタスはしどろもどろになって言葉を濁した。
お前のそう言う態度が状況を悪化させると言うのだ。
俺も人の事は言えないが。

 女が哀しそうな顔のまま話し始める。

「……私はトラゴス。王国には二年前に来たばかりです……かつて北の辺境バイラヌで、旅の途中だった貴方に出会いました」

 俺はカルタスを見る。
カルタスは黙って話を聞いていた。
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