見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二二四

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 残るは令子に群がる数体だけとなった。

「令子さん。任せても良いかい」

「……ええ……いい……わよ」

 何だか様子がおかしいが。

「大丈夫なのか?」

「問題ない……わ」

 どうにも釈然としなかったが、令子が大丈夫だと言うなら大丈夫だろう。
俺は多少気にしながらも変身を解くと、ボードに乗って再び風車小屋へと戻った。

 そう言えば令子の周りには死体が無かった。
俺はその事に気付いたが、彼らの能力は俺には理解しがたい事ばかりなので、特にそれ以上は疑問に思わなかった。

 風車小屋の前に着地する。
村長が驚いた顔で俺を見た。

「レ、レオ」

「様子はどうです?」

「いや、それがまだ……」

「そんな事よりそっちはどうだったんだ?」

 村人が俺に尋ねた。

「あ、ああ。もう問題ない」

「問題ない?」

 男が不思議そうな顔をした。

「まさか、お前……」

 村長が驚いた顔をする。

「……全部倒した」

 二人が絶句する。

「千体近く居たんだぞ!」

 男の形相が鬼気迫る物となった。

「ああ。だが令子さんと二人で倒したよ」

 村長が信じられないと言う風に首を横に振った。

 ガチャ

 風車小屋のドアが開いて、蜻蛉洲が出てきた。

「蜻蛉洲」

「もう大丈夫だろう。ついでに男の方も治療しておいた」

 さすがは蜻蛉洲だ。

「ところで」

 蜻蛉洲は男の方を向いた。

「お前は誰だ?」

 村の男は一瞬たじろいだ。
そりゃそんな言い方をされたら、誰でもたじろぐ。

「ああ、彼は……」

 村長が紹介しようと間に入った。
そう言えば、俺も彼を知らない。
小さな村だ。
昔から住んでいれば全員顔馴染みな筈だが、新しい居住者なのかもしれない。
俺が村を出たあとに来たなら、俺も知る筈はない。

「いや、そうじゃない。僕が聞きたいのは『お前は何者なのか』だ」

 俺は蜻蛉洲の言っている意味が判らなかった。
どういう意味だ。

「この一連の件はお前の仕業じゃないのか?」

 蜻蛉洲はハッキリとそう言った。
一連の件とは、つまりこの人間がゾンビー化する病の事か。

 何故そう思うのだ。
と言うよりも、そんな事が人間に出来るのか。

「僕はファンタジーなんて言う物は本当は嫌いなんだが、目の前に実際にあれば信じない訳にはいかない。それが科学者と言うものだ。事実とデータが全てだからね」

 蜻蛉洲は男に歩み寄った。
男は後ずさる。

「だから僕なりに調べたんだが。この世界にこんな病やモンスターは存在しない。賢者サルバスもそう言っていた。だとしたら、これは何者かが人為的に造ったと言う事になる」

 何者かが造った。
そんな事が可能なのか。

「ウイルスって知っているかい?目に見えない小さな微少な生物だ。これに感染すると病気になる。風邪なんかがそうだ」

 そうなのか。
知らなかった。
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