見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二二二

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 選べない。
何の罪もない人間が、モンスター化する。
彼らの責任は何もない。
それでも殺さなければならないのか。
じゃあ彼らはいったい何のために生きてきたのか。

 今日この日に、俺に殺されるために生きてきたのか。
そんな事のために生まれてきたのか。
何なんだ。
この理不尽さは。
俺はそう思うと余計に決められなかった。

 令子は先頭の一体と接触していた。
ゾンビー化した男が令子に掴みかかる。
しかし、令子は微動だにしなかった。
その内、わらわらと数名がやって来た。
それも全て令子に向かっていく。

 やがて、ものの数分の内に令子はゾンビー化した村人達に囲まれて姿が見えなくなった。
それでも令子に動きは見えない。
ただ、じっと立っているだけだった。

 怪人化した改造人間の体に、ほとんどの攻撃は無力だ。
令子はウロコフネタマガイと言う貝の怪人だ。
とりわけ硬い装甲を持ち、規格外の高い防御力を誇ると言う。

 ゾンビーだろうがグールだろうが、恐らく物ともしないだろう。

 どうする。
このまま時間を稼げないか。
俺だって令子ほどではないにしろ、彼らに囲まれても問題ない装甲を持っている。

 そんな事を考えている内に、モンスターの群れは大きく膨れ上がりドーム状になっていた。
まるで地獄なような恐ろしい光景だった。
こんなのが村から村へ、いずれ町へ、そして王国や帝国へと広がっていくのか。

 しかも人々を巻き込み増えていく。

 もう令子に届きもしない外周の数体が、令子を無視して再び進行し始めた。

「来たか……」

 令子一人で引き付けられるのはせいぜい三百前後だ。
残りの七百弱は、もうそれ以上令子に関心を示さなかった。

 もうそこまで迫っている。
俺が三百引き付けても、残りの四百弱は村へ向かうのだ。

 駄目だ。
とても引き止められない。
令子はまだじっとしていた。

 俺は……どうする。

 かつて、こんなに苦悩したことは無かった。
固く目を閉じる。
恐ろしさで手が震えている。
先頭の村人が俺に掴みかかった。
次々に、次々にやって来る。

 俺は。
俺は。

 目を開いた。

「済まない……ッ!」

 一言呟いた。

 ざしゅ!

 村人の体を俺の手刀が貫いた。
鮮血が飛び散る。

 ぎああああああああっ!

 悲鳴をあげた村人を振り払い、俺は迷いを振り切るように暴れた。
なるべく苦しみを与えたくない。
一撃で絶命させる。

 片っ端から村人を攻撃する。
次々に地面に倒れていく村人達だったが、俺は愕然とした。

「ぐ……ぎぎぎぎ……」

 生きている。
苦しそうな声を発しながらも、彼らは起き上がる。
死なないのか。
本当にゾンビー化しているのか。

 生きている人間がゾンビー化する。
そんな馬鹿な。
苦悶の表情で再び俺に掴みかかって来る。
俺は恐怖に震えた。
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