見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二〇〇

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「いいよ」

 サルバスが軽い口調で引き受けた。
本当か。

「ありがとうございます。我々は知らないことが多すぎる」

 蜻蛉洲はサルバスが引き受けることを知っていたように、平然と話を続けた。

「……だが、当然」

「判ってますよ。貴方の知りたいことは逆に私が教えましょう」

「ふふふ……さすがだな。機を見るに敏だ」

「知を探求する者の考えは、だいたい同じです」

 サルバスと蜻蛉洲はあっという間に協定を交わした。

「……え」

 マズルが呟いた。
一番身の置き所がないのはマズルだろう。

「あー、まあそう言うわけだからお主は帰っていいぞ」

 サルバスがマズルに言った。
勝手な爺さんだ。

「え……いや、あの」

「マズル、諦めろ。賢者様は自ら進んで残られる」

 俺はハッキリと現状を認識させた。

「そんな……アッサリと敵の味方になるなんて……」

 マズルが呟いた。

「敵?別に敵じゃないが。まあ、お前らが敵と言うなら相手にするしかないな」

 オオムカデンダルがとぼけたことを言う。
これで本気で言っているのだから恐ろしい。
彼らが本気を出したらどんなことになるか。
想像するまでもない。

 警備隊どころか帝国正規軍ごと叩き潰すだろう。
証拠はないが断言できる。

「マズル。お前の気持ちは判るがどうにもならんぞ。大人しく帰れ」

 俺は努めて冷静に言った。

「だが、隊長としてこのまま……」

「マズル!」

 俺はマズルの名前を叫んだ。
マズルがビクッとする。

「お前の責任感ではどうにもならん。帰ってそのまま伝えるんだ。別にお前のせいではない。俺に騙されたとありのまま言え」

 マズルは俺の顔を見た。

「お前を見込んだのは俺の責任だ。これは俺の責任なんだ」

 そう来たか。
どこまでも責任感の強い男だ。
だからこそ隊長を任されているのだろうが。

「マズルと言ったか」

 サルバスがマズルに向かって椅子を向けた。

「そんなに心配なら時々様子を見に来るがいい」

 は?

 俺はサルバスを見た。
秘密結社に通えと?
何を言っているんだ。

 確かに今さら何をとは思うが、どこの世界にそんなオープンな秘密結社があると言うのか。

 そんな俺の考えをよそに、サルバスは懐から羊皮紙を取り出すと指で文字を書いた。
それをクルクルと巻いてマズルへ手渡す。

「それを持って帰り第二皇子のソル様にお見せするがいい。お前の責を問うなと口添えもしてある」

 皇帝陛下ではなく第二皇子のソルに。
話の通じやすい所を経由させるつもりか。

「そうしろ。サルバス様を雑に扱うことはしない。そこは約束する」

 俺はサルバスの背中に手を当てた。
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