見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一九五

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「……止めておいた方が良い。お前では勝ち目はない」

 俺はマズルに言った。
どういう言い方になろうと、これは事実だ。

「いや!俺もついて行く!」

 なんだと。

「……なぜ?」

 お前まで来る必要はないだろう。
下手をすれば殺される選択肢だってゼロではない。
かと言って、お前がサルバスを守りきる事も不可能だ。
そのくらいの事が判らない筈はない。

「お前が言いたいことは判るぞ。だがな、だからと言って『はい、そうですか』とは言えない。『できる、できない』とか『殺される、殺されない』は関係ない。俺は警備隊隊長だ」

 俺はしばし沈黙してマズルの目を見ていた。
これは本気で言っている。
状況が読めていない訳ではない。
判っていてもそうすると言っているのだ。

 責任感か。
それとも警備隊隊長としての矜持か。

「……判った。ついてこい」

 俺はマズルを招いた。
マズルは緊張した顔で後ろに着いた。

 問題は……

 俺はヴァンパイアを見た。
なんて面してやがる。
ヴァンパイアの顔はいつの間にか人間態の顔に戻っていた。
この方が余計に気持ち悪いんだが。

「お前はどうするんだ」

 俺はなんとなく尋ねた。
別に本気でどうするのか興味がある訳ではなかった。
ただ、目があったからなんとなく口を突いて出ただけだ。

「うるさい……なぜトドメを刺さない」

 ヴァンパイアが恨みがましく言う。
なぜと聞かれても返事に困る。

「……お前死なないじゃないか」

 マズルが代わりに言った。
それも確かにそうだ。

「頭だけになってこれから永遠に生き続けるのかと思うと……ちょっと……」

 俺は理由を探して少し思ったことを言った。

「可哀想だと思われた訳か……」

 ヴァンパイアが鼻で笑う。
傷付いたのか。

「……まあ、いい。どうせこのままやっても勝ち目は薄いようだ。大人しくしておこう」

 何か言いたげな感じがする。
奥の手でもあると言うのか。
やはりここで殺しておくべきか。

 次第に冷気は弱くなり、元の気温に戻りつつあった。
アラレは段々と雨に戻っていく。
ヴァンパイアは霧に変わっていった。
もう、今から捕らえるのは無理だな、と思った。

「今日は確かに私の大敗北だ。素直に認めよう」

 空からヴァンパイアの声がした。
それを最後に言葉は聞こえなくなり、後には雨音だけが激しく残った。

「逃げおったか」

 サルバスが言った。
今となってはヴァンパイアなど、もはや気に掛かる存在でもなくなっていた。
ましてや頭だけのヴァンパイアなど。

 以前のような大きなヴァンパイア被害は減るだろうし、当面はそれで良いだろう。

 ヴァンパイアが去った事によって、雨雲は晴れ始めた。
俺たちはアジトに向かって歩き始めた。
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