見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
182 / 826

一八二

しおりを挟む
「……なんで判った」

 俺はオオムカデンダルに尋ねた。

『麓でお前らが騒ぐからだろ。ここから目と鼻の先だぞ』

 確かに。
しかし、麓から山腹までは結構ある。
それが聞こえたと言うのか。
しかもこの夕立の中で。

 本当かどうかは判らない。
もしかしたらまた動物を放って見ていたのかもしれないし、俺の目を通して見ていたのかもしれない。
いや、そのくらいの事があっても俺は驚かない。

「……何をぶつくさ言っているんだ」

 訝しみながらも、ヴァンパイアはすぐに攻めてくる。

 シュ!シュザ!

 ヴァンパイアの連続攻撃を身を捻ってかわす。
剣はさっき取り上げられた。
新たな武器を拾わなければ。

『おい、質問は終わってないぞ。なぜ苦戦しているんだと聞いている?』

 オオムカデンダルの声がイライラしている事を知らせた。

「なぜ?相手はヴァンパイアだぞ」

 俺はヴァンパイアの攻撃をかわしながら答えた。

『何言ってるんだ!お前がヴァンパイア如きに負けるわけないだろう!なんの為に改造してやったと思ってるんだ!』

 耳の奥にオオムカデンダルの怒声が轟く。

 以前は全く歯が立たなかった。
今は善戦している。
怒られるような事はないと思うが、オオムカデンダルはひどく立腹していた。

『……おい、レオ。変身しているのか?』

 声が変わった。
この声は蜻蛉洲か。

「いや、まだしていない」

『早く変身しろおーっ!』

 オオムカデンダルの叫びが遠くで聞こえる。

『……ならば早く変身したまえ。百足が今にも飛び出していきそうな勢いだ』

 蜻蛉洲が静かに言った。
後ろで令子がオオムカデンダルをたしなめているのが、かすかに聞こえる。

「……他に同行者が二名ほどいるんだが、良いのか?」

 俺は本当に正体を晒して良いのか確認した。

『誰だ?』

「町の警備隊隊長のマズルと、帝国の賢者サルバス様だ」

『賢者?もう捕まえたのか』

 蜻蛉洲の声が高くなった。

「捕まえたのとは違うが、実はそっちに向かっていた。そしたらヴァンパイアが待ち伏せしてたって訳だ」

『こっちに?……まあ、詳しくは後で聞こう。こっちに来るなら連れてくるがいい。大歓迎だ』

「いや、あの変身しても良いのか……?」

『ん?ああ、好きにしろ。片方の警備隊隊長は、別にどうとでもなる。不都合なら殺しても良いぞ』

 さらっと言うな。
秘密結社だと言うことを、こう言う部分でたまに思い出す。

『では、早く連れてきたまえ。百足が飛び出す前にな』

 そう言って声は聞こえなくなった。

 シャ!

 紙一重でかわしたヴァンパイアの爪が頬をかすめる。
軽い熱さを感じる。
その部分を手で触ると血が出ていた。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代に生きる勇者の少年

マナピナ
ファンタジー
幼なじみの圭介と美樹。 美樹は心臓の病のため長い長い入院状態、美樹の兄勇斗と圭介はお互いを信頼しあってる間柄だったのだが、勇斗の死によって美樹と圭介の生活があり得ない方向へと向かい進んで行く。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...