見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一七九

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 俺は少し力を込めて体を動かした。
多少の抵抗を感じるが、今の俺ならこの程度は問題ない。
生身の頃の俺なら絶対に動けなかっただろうが。

「何者かいるな?出てこい。今なら尻を叩くだけで許してやる」

 俺はどこかに紛れている何者かに話しかけた。

「……」

 囁くような声。

「はっきり言え。雨で聞こえん」

 俺は少し大きな声で言った。

「……君、以前とは別人だな。何があった」

 今度ははっきりと聞こえた。
何となくどこかで聞いた事のある声。
どこだ。

「隠れたままお喋りする気か?こんな真似をしておいて、ずいぶんとシャイなんだな」

 俺がそう言うと、今度ははっきりと気配が湧いてきた。
目の前に何かが揺らめく。
それが段々と人の形になっていくのが判る。
小さな雨粒のような点が、無数に集まり煙のようになる。
その煙が更に濃くなり人の形となっていった。

「……ほお。これは珍しいのに出会ったな」

 サルバスが後ろで声をあげた。

「……久しぶりだね。元気そうで何より」

 人の形はそう言いながら完全に実体化した。
コイツは。

「魔王……ヴァンパイア……!」

 俺は息を呑んだ。
あの時の記憶が甦る。
全く歯が立たなかった。

「ずいぶんと訓練を積んだのかな。見違えたよ」

 気取った話し方、フレンドリーな仕草。
だが、その目は笑ってはいない。
むしろ、怒気を孕んでいる。

「……魔王が何のようだ」

 俺は動揺を圧し殺して尋ねた。

「ふふふ。震えているのかい?だったら最初から姿を見せておけば良かったね。彼らもこんな目に会わずに済んだ」

「ほっほお。まさか魔王と因縁があるとは。益々お主に興味が湧いてきた」

 サルバスが呑気なことを言う。
いや、この状況でも慌てていない事に注目するべきか。
さすがだ。

「なぜ、ネオジョルトを知っている。これは何の為のショウだ」

「……なんの為?」

 俺の質問にヴァンパイアが眉根をピクリと動かした。

「知れたことを。あのムカデ野郎に借を返さなくてはね。僕は傷付いているんだよ」

 なるほど、オオムカデンダルに復讐しようと言う訳か。

「僕は姿も消せる、チャームを使えばいくらでも下僕を作れる。もちろん使い魔も使役する。ずっと彼らを暗闇から見ていたよ。この一連の出来事もみんな知っている」

 そうか。
つまりずっと張り付いていたのか。
魔王のクセにとんだストーカーだ。

「君の事も知っているが……どうやら中身はずいぶんと変わったみたいだ。むしろ僕たちに近い感じがするね……あのムカデ野郎もだけど」

 勘が鋭い。

「この男も姿を消して殺ったのか」

 俺は話には付き合わず、小ボスをどうやって殺したのか尋ねた。
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