見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一七八

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「どうする。もう、お前一人だ」

 気がついてみれば、残るは小ボス一人になっていた。
小ボスの顔には動揺が確かにあったが、だがどこかまだ余裕があるようにも見えた。

「く……っ!聞いていた話と違いすぎる!強すぎるじゃねえか!」

 聞いていた話?
やはり黒幕がいるな。
だが、どこのどいつか全く心当たりがない。

「お前には話を聞きたい。大人しく捕まるがいい。殺されはしないだろう」

 小ボスはわずかに逡巡した。
迷っている。

「……」

「なに?」

 小声で話す小ボスの声は、雨音にかき消されて良く聞こえない。

「言えるか!こっちが殺されちまわあ!」

 大ボスはよほど恐ろしい男のようだ。
粛清があると言うことか。

「うわああ!」

 小ボスが雄叫びをあげて襲い掛かる。
振り下ろされる剣がゆっくりに見える。
俺は難なくそれをかわし、手首を押さえた。

「くそっ!離せ!」

「大人しくしろ」

 俺は小ボスの手から軽々と剣を取り上げた。
こいつを殺すわけにはいかない。
かと言ってマズルに引き渡すのもためらわれた。
コイツがどこまで知っているか判らないが、ネオジョルトの秘密を知っているなら他人に聞かれる訳にはいかない。

「くそっ!くそっ!離しや……ッ!」

 急に小ボスの動きが止まった。
どうした。
発作か何かか?

 男はまるで糸の切れた操り人形の如く、俺の腕の中でぐったりと動かなくなった。

 おい、まさか。
死んでいるんじゃないだろうな。
俺は男の胸に耳を当てた。

 心音が聞こえない。死んでいる。

 そんな馬鹿な。
魔法か。
だが、こんな魔法は聞いた事がない。
そんな魔法があるなら戦も無くなる。
相手の大将を暗殺し放題だ。

 俺はサルバスを振り返った。
雨の中で姿もおぼろげだったが、サルバスもこちらの様子を察していた。

「魔法ではない。ワシに勘づかれず魔法力を働かせる事はできん」

 サルバスが確かな言葉で断言した。
外傷もない。
吹矢の類いでもない。

 俺は自分の感覚を頼ることにした。
まだ馴れないが、今の俺なら或いは。

 雨の中、目を見開いて耳を澄ませる。
それ以外に気配も探る。
なにかないか。
なにか居ないのか。

 その時、何者かがゆっくりと動いているのを感じた。
目には何も映ってはいないが、確かに何かが居る。
気配を殺して、ゆっくりと猫のように移動している。

 どこだ。
目を凝らして雨の中をうかがった。

 ドクンッ

 突然、軽い衝撃が体を襲った。
なんだ?
何が起こっている?

 体が何かに押さえ付けられる感覚。
かなり強い力だ。
だが、今の俺には動けない程の物ではない。
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