見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
173 / 826

一七三

しおりを挟む
「さあなあ。噂は噂だからな。だが、今回は噂で済めば良いが、そうでないなら本当に大事になる」

 マズルが真面目なトーンで言った。

「できれば噂であって欲しい。何事も無いのが一番だ。だが、万が一には備える必要がある」

 マズルの言葉にヒスタが頷く。

「ネオジョルトなる奴らが本当に現れ、噂通りの実力なら俺たちだけで勝つのは難しい。だから賢者様をなるべく無事に逃がす事に専念する」

 そう言ってマズルが全員の顔を見渡した。

「帝国将軍と言えば相当強いですよね。ブラックナイトクラスに匹敵するかそれ以上……それとやり合うってのは、そいつらも相当ですよね」

「まあ……そうだろうな」

「で、そいつらが賢者様を襲うと」

 ヒスタが状況を確認するように話す。

「うむ」

「一方、賢者様はそのネオジョルトって奴らを調べたい。て事は賢者様は喜んで出ていくんじゃないですかね?」

「そう……だろうな」

 マズルがヒスタの言葉に苦悶の表情を浮かべる。

「で、俺たちは賢者様を無事に逃がしたい。これ……俺たちにできる事あります?」

 確かに。

「……だから賢者様にはネオジョルトが狙っている事は秘密だ」

 マズルの声が心なしか小さくなった。

「でも賢者様は奴らを調べたいんだから、秘密にしたってネオジョルトが出てきたら意味なくないですか?」

 マズルは返事をしなかった。
たぶん本人も判っていることなのだろう。
この矛盾を。

 それでもやらなければならない所が宮仕えの辛いところか。

 なるほど。
それで俺を必死にスカウトしたのか。
少しでも駒を増やし、なおかつ強いヤツが居れば欲しい状況だ。
賢者が出ると言ったら、否応なく護らなければならないからな。

「さ、話はこんな所だ。今日は明日に備えて早めに休め。明日は八時に集合だ。遅れるなよ」

 マズルはそう言って立ち上がった。
ヒスタとスルダンもそれに続く。

 俺はどうするか。
とりあえず宿を探さなければ。

「レオ、お前は寝床は決まってるのか?」

 マズルが尋ねた。

「いや、この辺の近いところで適当に宿を探す」

「そうか」

 マズルはそう言って、明日会おうと手を振った。
俺はそのまま歩いて、すぐ近くに宿を見つけた。
適当に部屋を取り夕飯まで休んだ。

 俺は俺で明日の事を考えなければならない。
すなわち、どう賢者を拐うかだ。
ドラゴンクラスの賢者を俺一人で何とか出来るのか。

 ネオジョルトの件も気にかかる。
だが、それは真偽も定かではない。
本当に現れるにしろ、デマにしろ、こればっかりは出たとこ勝負だ。

 だったら俺も出たとこ勝負にするしかないな。
そう思ったら他に考えることは、もう無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

付喪ライダー:付喪神の力と共に闘う轢過非日常生活

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸
ファンタジー
付喪神の力を宿し闘う“付喪人”が潜むこの世界。 バイク好きの少年『森阿長与』は年上のお姉さんである『白巳橙子』さんと同居暮らし。毎日2人で楽しい日々を送っていた。 しかし、橙子の誕生日以降に出会った記憶のない1人の少女との出会いから不死身の肉体を巡る争いに巻き込まれていく。 ─────これは長与が相棒と共に敵対者を轢き殺していく物語。 *9月1日から9月12日までは毎日22時に投稿します。お気に入り登録とか頂けましたらうれしいです

Dマシンドール 迷宮王の遺産を受け継ぐ少女

草乃葉オウル
ファンタジー
世界中にダンジョンと呼ばれる異空間が現れてから三十年。人類はダンジョンの脅威に立ち向かうため、脳波による遠隔操作が可能な人型異空間探査機『ダンジョン・マシンドール』を開発した。これにより生身では危険かつ非効率的だったダンジョンの探査は劇的に進み、社会はダンジョンから得られる未知の物質と技術によってさらなる発展を遂げていた。 そんな中、ダンジョンともマシンとも無関係な日々を送っていた高校生・萌葱蒔苗《もえぎまきな》は、突然存在すら知らなかった祖父の葬儀に呼ばれ、1機のマシンを相続することになる。しかも、その祖父はマシンドール開発の第一人者にして『迷宮王』と呼ばれる現代の偉人だった。 なぜ両親は祖父の存在を教えてくれなかったのか、なぜ祖父は会ったこともない自分にマシンを遺したのか……それはわからない。でも、マシンを得たならやるべきことは1つ。ダンジョンに挑み、モンスターを倒し、手に入れた素材でマシンをカスタム! そして最強の自分専用機を造り上げる! それが人を、世界を救うことに繋がっていくことを、蒔苗はまだ知らない。

捨てられた第四王女は母国には戻らない

風見ゆうみ
恋愛
フラル王国には一人の王子と四人の王女がいた。第四王女は王家にとって災厄か幸運のどちらかだと古くから伝えられていた。 災厄とみなされた第四王女のミーリルは、七歳の時に国境近くの森の中で置き去りにされてしまう。 何とか隣国にたどり着き、警備兵によって保護されたミーリルは、彼女の境遇を気の毒に思ったジャルヌ辺境伯家に、ミリルとして迎え入れられる。 そんな中、ミーリルを捨てた王家には不幸なことばかり起こるようになる。ミーリルが幸運をもたらす娘だったと気づいた王家は、秘密裏にミーリルを捜し始めるが見つけることはできなかった。 それから八年後、フラル王国の第三王女がジャルヌ辺境伯家の嫡男のリディアスに、ミーリルの婚約者である公爵令息が第三王女に恋をする。 リディアスに大事にされているミーリルを憎く思った第三王女は、実の妹とは知らずにミーリルに接触しようとするのだが……。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

ホメオティック仮面ライダー

十八十二
ファンタジー
2009年、当時七歳の少年が100メートル走にて12秒06という驚異的な記録をたたき出した。  その少年の名は奥播磨。  同年、またも彼は世間を騒がせた。『行方不明になった未来のオリンピック選手』として。  この事件をキッカケに次々と明るみになる少年少女の失踪事件。その誰もが何か一つの事に秀でた、いわゆる神童達ばかりであった。  連日の報道、世間はその話題で持ちきりになった、その年だけは。  十年後。  闇の中を疾走する大小二つの影。  支配者の時代を二つの影は突き破る。  命の灯火を燃やしながら。

謎の箱を拾ったら人生が変わった件〜ダンジョンが現れた世界で謎の箱の力を使って最強目指します〜

黒飛清兎
ファンタジー
ネットが趣味の晴輝は、ある日ネットで知り合った女の子と遊びに行く約束をする。 そして当日、待ち合わせ場所でその子と会うと、顔の醜さを罵られた挙句、その顔をネットに晒されてしまう。 ネットが人生の全てだった晴輝は絶望し、自殺しようとするが、偶然ダイヤル式の鍵のついた謎の箱を拾う。その箱を開けると中から全く同じ箱が出てきた。 この事に興味が湧いた晴輝は、何個も何個もその箱を開けた。すると…………。 【スキル《解錠LV1》を入手しました】 頭の中で謎の声が響いた。 こんな超常現象を何故かすんなり受け入れた晴輝は、その箱を使ってスキルを手に入れていき…………。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました

ゲンタ
ファンタジー
転生したら、荒れ地にポツンと1人で座っていました。食べ物、飲み物まったくなし、このまま荒野で死ぬしかないと、途方に暮れていたら、ドラゴンが助けてくれました。ドラゴンありがとう。人族からエルフや獣人たちを助けていくうちに、何だかだんだん強くなっていきます。神様……俺に何をさせたいの?

処理中です...