見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一六五

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「お前らは一度目を付けたら諦めない。二、三度追い払っても仕返しを忘れない。本当にしつこい」

 俺は胸から抜いた短剣を目の前で真っ二つにへし折った。

 バキンッ!

 そしてそれを放り投げる。

「こうなった以上、殺すしかあるまい。下手に仕返しされても困るしな。どうせ人質とったりするんだろ?」

 俺は脅すでもなく、さも当然の事のように言った。

「そんな……決めつけが過ぎ」

「いーや。やるね」

 柄にもなくしおらしい声を出したリーダー格の言葉を俺がさえぎる。

「どうせ死ぬしかないんだ。死ぬ気で俺を殺してみろ。もしかしたら助かるかも知れんぞ?」

 俺はリーダー格と男Aを見比べた。
男Aは完全に戦意を失っていた。
自らの手で短剣を突き刺した張本人だ。
最も無駄だと痛感している。

 リーダー格は葛藤している。
『やるしかない』と『やれるわけない』がせめぎ合っている事が顔に出ていた。
意外と素直な性格なのか。

「……よしわかった。じゃあゲームをしよう」

 俺はもう少し追い詰める事にした。
こいつらが二度と、彼の妻と子供に手を出したくなくなるようなプレッシャーを心に刻み込む必要がある。

「こいよ」

 俺はリーダー格を呼んだ。
店の真ん中の席へと移動すると、そのテーブルを空けてもらう。

「済まない。この席を使わせてくれないか」

 俺がそう言うと、テーブルに陣取っていた男たちは素直に席を譲ってくれた。
みんな余興代わり興味津々だ。
つまり彼らは全員野次馬だ。

「座れよ」

 俺はリーダー格に席を勧めた。
言われてリーダー格はおずおずと座る。
俺も向かいに座った。

「おい、誰か。このシャンデリアに切り込みを入れてくれよ」

 俺は店の冒険者たちにそう言った。
みんな一様にポカンとしている。

「シャンデリアに切り込み?あのシャンデリアを吊っている紐にかい?」

 一人の冒険者が聞き返した。

「そうだ。いつ落ちるか判らない方が面白い。適当にやってくれ」

 俺はそう言ってから、更にエールのお代わりを要求した。

「ジャンジャン持ってきてくれ。全然足りない」

 俺がそう言うと、店中が奇声と歓声に包まれた。

「正気か兄ちゃん、イカれてるぜ!」

「これで度胸比べをしようって訳か!」

「はっはっはっ!こりゃいいや!俺たちも今度揉め事の解決策に取り入れようや!」

 そう言いながらも一人の男が天井へよじ登ると、シャンデリアの紐に切り込みを入れる。

「五ミリの切り込みを三ヶ所入れたぜ。これでどうやっても絶対に落ちる」

 他人事だと思ってたいした念の入れようだ。
だがそれでいい。

 リーダー格の唇は震えている。
天井を見上げシャンデリアを睨み付けている。

「……や、やってやるぜ!」

 リーダー格が意地を見せた。
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