見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一六四

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 瞬間、リーダー格の表情が変わった。
この薄汚れた汚い目つき。
これが本性だ。

 一方的に完封勝利を目指すのは簡単に思えた。
だからあえて、こいつらの好きにやらせてみる。

「いつまでも調子に乗ってんじゃねえッ!」

 怒声を発しながら、リーダー格が右手で俺の顔面へ料理の乗った皿を叩きつけた。
くそっ、スープがたっぷり出てる料理じゃないか。
顔面ベトベトだ。

 そこへ間髪入れずに男Aが俺のあごを蹴りあげた。

 バキッ!

 派手な音がしたが、音だけだ。
当然痛くも痒くもない。

 俺は微動だにせず、顔面をしたたるスープを手のひらで拭った。
そうしておいてジョッキを握ると、またエールを喉へと流し込む。
スープの味と混ざってちょっと気持ち悪い。

「おい悪い。もう一杯お代わりをくれ」

 カウンターにお代わりを要求してから、俺はリーダー格の顔を見た。

「お前のせいでエールが不味いんだが?」

 リーダー格は目を見開いて俺を凝視している。

「見ろ、服もビショビショだ。どうしてくれるんだ?」

 俺は更に詰め寄った。

「なに?死んでお詫びします?」

 リーダー格の口許に耳を近づけて俺はそう言った。

「い、いや!俺はそんなことは言って……!」

「なんだって?こいつらの命も好きにしていい?」

 俺は更に一人芝居を続ける。
男A、Bも俺の言葉に動揺した。

「な、なに言ってんだ、てめえ!」

「は?なんだやっぱ嘘か。これだから悪党は嘘ばっかりついてて信用ならないんだよ」

 俺は両手を広げて肩をすくめた。

「ふざげんなッ!」

叫びながら 男Bが、テーブルを乗り越えてナイフを振りかざす。

「行儀が悪い」

 俺は男Bが乗ったテーブルを思い切り蹴り飛ばした。
普通の男は慌てて咄嗟に身をかわす。
なかなか良い反射神経だ。
男Bはテーブルごと吹き飛んで、壁とテーブルの間に挟まった。

 その瞬間を見逃さず、男Aは仲間に構わず短剣を俺の胸に突き立てた。

 ドカッ!

 鋼の剣先が胸に強く当たった。
これもなかなか良い判断だ。
仲間が吹き飛ばされた隙に乗じて攻撃を実行する。
普通、誰でも仲間を見るところを、構わずこういう行動ができるのはそれなりに場数を踏んでいる事の表れだ。

 だが。

「な……なん……なんなんだ!」

 男Aは腰を抜かして床にへたり込んだ。

「……よくも刺したな。この人殺しが」

 俺は男をネットリと睨み付けた。
そしておもむろに胸に刺さった短剣を掴むと、ゆっくりと引き抜いた。

 当然、貫通などしていない。
骨にでも当たったのだろうか。
それにしても全力で刺した剣が完全に止まるとは。

 痛みも無いし、どこにも支障はなかった。
我ながら凄い体になったものだ。
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