見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一六〇

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 取り敢えず動くか。
ここに居ても特に俺がするべき事はない。
行動しながら考える方がいい。

 俺は例のバックパックを肩に引っ掛けると、拠点を出た。
空を見上げれば晴天である。
爽やかな風が頬を撫でる。
こんな日に山に登るのは、まさにハイキング日和だろう。

 ギャアアアアオッ!
ケケケケエエエエッ!
グルルゴアアアアッ!

 遠くでモンスターの叫び声が聞こえる。
ミスリル銀山はモンスターの巣窟だ。
爽やかな気分など二秒で台無しである。

「さて」

 俺は気を取り直して山を降りる。
このルートは町へ向かい、そのまま帝国領内を目指す道だ。
徒歩で向かうような道ではないが、今の俺なら問題ない。
疲れもしなければ足も痛まないからだ。
それどころかスピードがもう人のそれではない。

 走れば半日で帝国に着くだろう。
だが特に何の方策も持たない俺が、そんなに急いで帝国に着いても困るだけだ。
どうするか考えなければ。

 スピードを抑えながら早歩きで道を進む。
しかし、それでも町へはすぐに着いてしまった。
早く着き過ぎて困るとは。

 俺は適当な宿屋を見繕って扉をくぐった。
部屋に荷物を置くと食堂へと向かう。
まだ真っ昼間だと言うのに、もう既に酒盛りしてる連中が居る。

 まあ、これが冒険者の宿ってヤツだ。
初めての宿だが、よく知った雰囲気だ。
俺は適当なテーブルに陣取ると、エールと食事を頼んだ。

 さて、これからどうするか。
特に宛がある訳ではない。
まずはどういう人材が居るのか知らなくては。
じゃあ、どうやってそれを知れば良いか。

 人に聞くか。
誰に?
ここで適当な奴を捕まえて情報収集か。
冒険者の宿で情報収集をするのは常套手段だ。
冒険者は様々な情報を持っている。
だが、その中身は玉石混淆だ。
欲しい情報に運良く当たればラッキーと言うくらいの物だ。

 もっと制度が高い情報を持っているヤツ……
そんな事を思っているうちに料理が来た。
取り敢えずエールをお代わりして、肉にかじりつく。

 旨い。
化物になってもちゃんと味覚は変わらずにいてくれたか。
人肉しか食べられない体になっていたらどうしようかと、少し心配ではあったが良かった。
そう言う部分は人間のままだ。

 そうこうしながら一人で何杯エールを飲んだだろうか。
一つ大変な事に気付いた。
この体は酔わない。
何杯飲んでも酩酊しない。
じゃあ、俺は何のために飲んでるんだ?

 酒の存在意義を根本から否定する体だ。
二度と『酔う』と言う行為を楽しむ事は出来ないらしい。

 地味にショックだ。
せめて、味だけでも楽しみたい。
俺はやけ酒気味にエールを注文した。
酔わないのに。
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