見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一五六

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「そう。サフィリナは自前で光学迷彩の基礎とも言うべき能力を持っている。それを限界まで発展強化した。この距離で見ても判らないほどの完成度だ」

 蜻蛉洲の饒舌が増す。

「消えたから何だって言うんだ。こそこそ隠れて敵が倒せるかよ」

 オオムカデンダルはまだ認めていない。
かく言う俺もよく判っていない。
そもそも、自分の姿もまだ見てない。
消えているならなおさらだ。

「十の力を持つ者を、百の力で倒す必要などない。例え九の力でも見えない利を活かせば倒すことは幾らでも可能だろ」

 蜻蛉洲が言った。
オオムカデンダルが、ケッと言ってそっぽを向く。
子供か。

「キロネックスは当然毒だね」

 フィエステリアームが構わず話の先を促した。

「その通り。世界一危険とも言われるこの毒は青酸カリの千倍、サソリの一万倍と言われる。刺されたら五分以内に死ぬ事もざらだ。一分で死んだ例もある。成人男性七十人分の致死量を持つ」

 我が事ながら危険極まりない。
そんなのになってしまったが良いのかこれ。

「おい。また毒かよ。フィエステリアームの時で懲りたんじゃないのか、俺たちまで危ないんだぞ」

 オオムカデンダルが口をはさんだ。

「心配ない。今度は刺胞に触れなければ毒は注入できない。辺りに散布するような類いではないのでね。とは言えキロネックスの毒をそのまま持ってきた訳ではない。当然強化してあるから、やられれば改造人間の俺たちでも無事では済まんぞ」

 蜻蛉洲がそう言って笑った。
何がおかしいのか。
コイツ大丈夫か。

「当たり前だ。強化の余地があるのにやらないのは科学者として三流だ」

 オオムカデンダルが同意した。
コイツらの価値観が俺には判らない。

「今のところ俺が感嘆するような内容ではないな。蜻蛉洲、お前ボケたな」

 オオムカデンダルが軽蔑するように蜻蛉洲を見た。
冗談で言っているような表情には見えない。
オオムカデンダルは本気で蜻蛉洲を疑っている。

「ふ。お前にそんな事を言われる筋合いはないが、一応反論しておいてやる。お前にはこのレオは倒せん」

 蜻蛉洲はまっすぐにオオムカデンダルを見据えてそう断言した。
また勝手な事を言う。

「やはりボケたか。百歩譲って最高傑作ができたのだとしよう。だがそもそも素材不足は克服のしようがない。俺たち幹部とは物の完成度が違う。それが俺に勝つだと?」

 オオムカデンダルが俺を一瞥してからそう言った。

「違うな。俺は『倒せん』と言ったのだ。どっちが勝つかはお前とレオ次第だ」

 蜻蛉洲がもってまわった言い方をする。
どういう意味か、俺にも真意は計りかねた。
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