見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一四九

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「哺乳類や鳥類は駄目だ。弱い!」

 オオムカデンダルが間髪入れずに却下した。

「何故だ。弱くないだろ」

 蜻蛉洲が反論する。
そうだ、頑張れ蜻蛉洲。

「隼の飛行速度は時速三八七キロにも達する。猛禽類特有の強さと目の良さもある。弱い訳ない」

 そうなのか。
速いと思っていたが、そんなにも速いのか。

「速けりゃ強いって物でもないだろ。強さが第一だ」

 オオムカデンダルは一歩も譲らない。
あくまでも強さにこだわるか。
蜻蛉洲が言っていた意味が判った。

「あら、別に虫だけにこだわる必要はないと思うけど?」

 令子が口を出す。
頼む。
誰でもいい。
虫の呪縛から救ってくれ。

「強さなら虫から選ぶのが最良なんだ」

 オオムカデンダルは譲らない。

「だって百足君は虫じゃないじゃない」

 令子がそう言った瞬間、この場の時間が止まったように感じられた。

 オオムカデンダルは虫じゃない?
ムカデは虫ではないのか?
生き物にあまり詳しくない俺は、今までムカデは虫だと思っていたんだが。

 俺はオオムカデンダルの顔を見た。

 固まっている。

 どうやら本当らしい。

「あの……ムカデは虫じゃない……って?」

 俺は恐る恐る令子に尋ねた。

「そうよ。ムカデは節足動物だけど、虫、いわゆる『昆虫』とは違う仲間ね」

 さすがは学者先生と言うだけの事はある。
知らなかった。

「私だって虫じゃないし、フィエステリアームも虫じゃないわ。でもこうやってちゃんと幹部も務まるのよ」

 そう言って令子は笑った。

 オオムカデンダルはまだ動かない。
死んだのかな?

 俺はオオムカデンダルをよそに令子に尋ねた。
前から気になっていた事だ。

「あの、君は何の能力を持っているんだ?」

「私?私は貝よ。ウロコフネタマガイと言う巻貝」

 貝。
まさかの貝。
確かに生き物だが、貝なんかで良いのか?
戦闘なんて無縁だろう。

「確かに戦闘とはあまり関係ないわね。だって私はもともと戦闘なんて興味ないし、好きでもないもの」

 いや、それにしたって何故貝なのか。

「私はね、怖がりなのよ。死にたくないし、傷つくのも嫌。だから丈夫で頑丈な貝にしたのよ」

 そう言って令子が片目を閉じて見せた。
俺は突然の意外な仕草に少しドキッとした。

「ウロコフネタマガイと言うのは珍しい貝でね。鉄の鱗を持っている」

 蜻蛉洲が説明を継いだ。
鉄?
生き物なのに?
俺はワイバーンを思い出していた。
あの硬い鱗。
金属質の鱗だ。

「ウロコフネタマガイは、生物で唯一、硫化鉄を骨格に持っている。彼女はその能力をモチーフとしているからな。誰も彼女を傷つける事はできない」

 そう言って蜻蛉洲は何故か自慢気だった。
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