見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
145 / 826

一四五

しおりを挟む
 容易い事か。
俺は苦笑した。

 メンタルの違いなのか。
バイタリティーの違いなのか。
それとも単に何も考えていないのか。

 おそらく全部かもしれない。
尊敬とは違ったが、何となく羨ましくはあった。

 とにかく今は少し休もう。
とにもかくにも、ミスリル銀山に拠点が完成してからの話だ。
それまでしばし、考えをまとめてみようと思う。

「おい、レオ」

 蜻蛉洲が俺を呼んだ。

「来い。お前の腕を少し調べさせてくれ」

 俺は言われるままに蜻蛉洲に着いて行く。
この屋敷は思ったよりもずっと広い。
蜻蛉洲の研究室も地下にあったが、格納庫や医務室、令子のラボ、それぞれが別の地下入り口を持っていた。

 蜻蛉洲の研究室に着くと、様々な機械に掛けられた。
入れ、出ろ、また入れ、息を止めろ、ここへ寝ろ。等々。
およそあらゆる事を命じられたが、これがいったい何の役に立っているのかはさっぱり判らなかった。

「だいたい判った。予想通りだな、治せる」

 俺が何をされているのかも判らないうちに、蜻蛉洲は『何か』がだいたい判ったらしい。

「お前でテストしておけば、あの娘の両親はより簡単に治療できるって訳だ」

 なるほど、俺はテスト要員だったか。

「この薬を毎晩寝る前に飲め。飲み忘れるなよ」

蜻蛉洲はそう言って薬を俺に手渡した。

「……え?薬だけ?」

 俺は面食らった。

「馬鹿言うな、治療もする。さっさと、このテーブルに右肘を乗せろ」

 俺は言われるままにテーブルの上に肘を乗せた。

「そのままだ。動くなよ」

 蜻蛉洲はそう言ったきり、部屋から出ていった。
よく見ると隣の部屋と続いていて、窓からこちらを見ている。

「少し熱いが我慢しろ」

 部屋中に蜻蛉洲の声が響き渡る。
どこから声が聞こえてくるのだ?
そんな事を考えていると、右肘が熱くなってくるのを感じた。
なんだ?

 じんわりとも違う。
かと言って、火傷しそうな感じとも違う。
上手く言えないが、何か目に見えない熱が右肘に当たっている感じか。

「よし、もう良いぞ。これから毎日やるからな。たぶん、三日か四日で治るだろう」

 部屋に戻ってきた蜻蛉洲が、さらりとそう言った。

 本当か。
石化した体が元に戻ると言うだけでも信じがたいのに、三日か四日で治ると言うのか。

 まるで魔法のようだ。
彼らは専門職が手分けするような事も、一人でこなしてしまう。

 索敵も戦闘も治療も、本来ならレンジャーや剣士や、果てはプリースト辺りがやるべき仕事を、一人でこなしてしまう。

 百人力と言う言葉があるが、彼らはそれを地で行っている。
ワイバーンさえ退けるのだ。
それ以上だろう。
しおりを挟む

処理中です...