見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一一七

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 下りの山道を疾走してきた俺たちは、先頭を走るオオムカデンダルの合図で立ち止まった。

 道はまだ続いていたが、ちょっとした崖になっている場所にオオムカデンダルは立ち止まったのだ。
見ると、その先の山道入り口付近の開けた場所に、大軍が陣取っているのが見えた。

「すげぇ……」

 俺は思わず言葉を漏らした。
見たこともない人間の数だった。
群集と言う言葉も適当ではないほどの人の群れ。
パッと見ただけでも気持ち悪いと感じるくらいの人の塊。

 ざっと三万は下るまい。
辺りを埋め尽くす大軍が、そこに展開されていた。

 全軍ほとんど騎馬兵だ。
帝国本国からロック鳥を追ってきたのだから当然か。
その後ろに象が何匹も見える。
象に乗っているのは基本的には王族だが、軍隊の場合には魔法職が乗っている事も多い。
頑丈で安定している象の上から魔法による攻撃は相性が良い。

「さて……」

 オオムカデンダルは咳払いをしてから、第一声を発した。

「ごきげんよう諸君」

 オオムカデンダルは少し小高くなった、この小さな崖の上から第一声を発した。
地声とは思えないほどの大きな声だ。
これも何か特殊な方法による声なのだろう。
三万の兵全体に届くような大声だ。

「一方的な話になるが、まあ、楽にして聞いてくれよ」

 オオムカデンダルの言葉に兵士たちがざわめいている。
これだけの大軍だ。
ざわめきだけでもここまで伝わる。

「これは我々の声明だ。今日、この瞬間からこの山には一切の入山を禁止する。何故ならこの鉱山は我々の物となったからだ」

 俺は思わずオオムカデンダルを見た。
ミスリル銀山を独占所有しようと言うのか。
彼らはミスリル銀とモンスターの両方を利用価値ありと見ている。
ここを押さえるのは彼らにとって一石二鳥なのだ。

「したがって諸君らはこれより一歩も前進してはならない。大人しく転進して本国に戻りたまえ。さもなくば我々は権利を侵害されたものと見なし、諸君らを攻撃する」

 目茶苦茶な言い分だ。
一方的だと断ってはいたが、こんな言い分が通るはずもなかった。

 だが、彼らは『普通』ではない。

 やると言ったら必ずやるし、また、その実力を持っている。
このあとの展開を考えると緊張が高まる。
しかし、同時に怖いもの見たさもあった。

 いったい、どうするのか。

 オオムカデンダルの声明が宣言されたあと、帝国軍の中から一騎の兵が出てきた。
感じから察するに大隊長以上だろう。
さっきのあの大隊長か。

「面白い話だが、それが通るかどうかが判らんほど馬鹿ではあるまい。何のつもりだ?」

 その兵士もまた、馬鹿げた大声で語りかけてきた。
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